『追う者』









「暑い」

 1人、呟く。
 騒がしい喧騒から逃れてきて、ばったりと草の上に転がる。
 ようやく任務に取り掛かれるところだが、あまりの暑さにさっぱりとやる気が湧かない。
 このうだるような暑さで、ナルトとキバはシカマルやチョウジを巻き込んで馬鹿騒ぎしているし、いのとサクラは未だに延々と喧嘩している。
 担当上忍達は担当上忍達でのんびりとくつろいでいた。
 ひたすら真面目に働いているのはシノとヒナタくらいだ。
 草刈なんて面倒な任務はやってられない、と心底思うのだが…。

「ヒナタ、大丈夫か?」
「うん。…こんなに広いとやっぱり大変だね…」
「そうだな。うちはもどこかに消えたようだし」
「あ…本当…。何処に行っちゃったんだろうね…」

 と、思いっきり視線をコチラに固定したままにそんな事を言われれば、居心地が悪い事きわまりないし、これ以上は後が怖い。
 いのとサクラ、ナルト達からは死角になるように、大回りしてから姿を現す。

「うちは、何処に行っていた?」
「あ、うちは君。何処に行っていたの…?」

 その2重奏に、頬がひくりと引きつった。
 勘のいい2人は明らかにサスケが他のメンバーを避けた事に気付いているだろうに、わざわざ名前を呼んでその存在を主張する。
 しかも、心なしか2人揃って普段より声がでかい。

「あーーーーっっっっ!!!サスケサボりー!!!」
「ちょっとナルト!」
「サスケ君!何処に行ってたのー!?」

 まさにいつものようなやり取りがあっという間に開催されて、それは担当上忍が痺れを切らすまで続くのだった。





「あらら、またさぼりかしら?」

 くすくすと、軽やかな笑い声と共に背後に現れた気配に、一瞬だけ目を見張り、けれどもすぐに息を抜く。
 ふっ―――と唇を歪ませた。その眉間にはしっかりと縦しわが刻まれている。

耶娃やえ、遅い」
「そうでもないわ。嗄刺かざ。貴方が気付かなかっただけ」

 くすくすと笑い続ける耶娃を、嗄刺はひどく不機嫌に見上げ、目の前で揺れる耶娃の手を掴んで引き寄せる。
 それだけで宙に浮いてしまうような軽い身体なのに、戦えば耶娃の方が断然強いのだ。
 至極自然に耶娃の身体は嗄刺の腕に包まれた。
 突然の抱擁に逃れるように動いた耶娃の腰を抱いて、小さな唇に己の唇を落とす。
 いきなり押し付けられたそれに、耶娃は一瞬目を見開き、次の瞬間には呆れたような何とも言えない微妙な表情に移り変わる。

 深く浅く口付けを繰り返していた嗄刺だが、しばらくして、ぴたりと動きを止めた。
 首元に、冷やりと冷たい刃の感触を感じたから。
 わずか薄皮一枚を残して、嗄刺の首元にクナイが突きつけられる。
 名残惜しそうに唇、及び身体を離した嗄刺の耳に、冷徹なまでに平静な耶娃の声が届いた。

「嗄刺、任務に遅れるわ」

 まるで何も無かったかのようにしれっと言い切った耶娃に、嗄刺は冷や汗を流しながら頷いた。耶娃を怒らせると恐ろしいのは嗄刺の最もよく知るところだ。
 ふわりと宙に舞った耶娃は、それ以上は何も言わずに嗄刺を残して走り出す。
 それを追いかけながら、印を切って姿を変える。
 前を行く耶娃の姿も既に先程までとは別のもの。
 2つの黒影が闇に舞って、溶けるようにして消えた。





 耶娃の刀が空を切る。
 2本の刀が交互に舞い、鮮やかに鮮やかに命を刈り取る。

 それを、嗄刺は見つめる。
 彼が無造作に身体を揺らせば、周囲で血が飛び散る。
 幾つもの命を消しながら、嗄刺はそれに目もくれない。
 鮮やかに、強烈な紅の華を咲かせて、ふわりと耶娃の身体が地に降り立った。

 その様はまるで全ての命を刈り取る死神のように。
 その様はまるで全ての魂を天に導く天使のように。
 全く違う存在でありながら同じである耶娃という存在。
 それはあらゆる存在を超越した、傲慢な神の如き佇まい。

 いつ、どんな時でも目を奪われずにはいられない。
 炎に焦がれる羽虫のように。
 例えその身を業火に焦がそうとも、ふられずにはいられないのだ。

 己の周囲に散った命を、無造作に耶娃は踏みつける。
 その姿、何と傲慢で美しい神であることか。

「嗄刺、早く帰るよ。任務が終わっちゃう」

 仮面を外し、真白い瞳がひたと嗄刺を見据える。
 その時間さえも惜しむように、耶娃の姿が変わり、旧家のおちこぼれと名高い黒髪の少女が現れる。
 嗄刺以外は誰も知りはしない少女の真実の姿。
 素早い耶娃の行動に従い、嗄刺も姿を変える。
 黒髪の、赤き血継限界を受け継ぐ、ただの1人のうちはの少年へと。

「別にいいだろ?任務なんて疲れるだけってヒナタもいつも言ってるくせに」
「駄目よ!いいから早く」
「何でそんなに急ぐんだよ」

 いっつもいっつも面倒だ面倒だと暗部任務の時に憂さを晴らしているくせに。
 心底不思議そうなサスケに、ヒナタはもどかしそうに唇を尖らせた。

「だって、ナルト君が帰っちゃうじゃない!」

 その、本気で嫌そうな響きを伴うセリフに、サスケの頬がひくりと引きつった。

「…別に、構わないだろ。……………あんなおちこぼれ」

 ぼそりと付け加えた本音に、2人の周囲を冷気が纏った。

「サースーケーくーんー。…今度それ言ったら殺すよ?」 
「〜〜〜〜〜〜〜〜っっ!!!!」

 ヒナタよりじわりじわりと漏れ出す殺気に、びくりと身を震わせて、サスケは後ずさった。
 幼い頃より共に育ったサスケには分かる。
 彼女は本気だ。

「で、でも、だな…。ヒナタ。お前は俺の彼女だろ?」

 何故こんな馬鹿みたいなことをわざわざ言わなければならないのかと、内心思いながらも、サスケはヒナタに確認する。

「あら。そうだったかしら?」
「〜〜〜〜〜〜ヒナタっっ!!!!」
「あらら。男の嫉妬は見苦しいよ?サスケ君」

 くすくすと笑うヒナタに、先程までに彼女を纏っていた神々しさは何処にも見当たらない。
 あれだけのものがどうしてこうも簡単に消え失せてしまうのか、サスケは、嗄刺として耶娃と行動するたびに思うのだ。
 だが、結局どの顔であっても、例え本性が恋人を恋人とも思わないような人間であっても、サスケはヒナタに惹かれてしまうのだ。
 どうやっても。

「あら。落ち込んだ?」
「…落ち込んだ」

 恨みがましくヒナタを睨みつけるサスケに首を傾げて、サスケの顔を覗き込む。子供のように…子供なのだが、無防備に顔を顔に近づけるヒナタに、サスケは意地悪く笑った。
 任務前の様にその唇を奪う。
 あれだけの力を持ち、普段どんな人間の気配も気付くくせに、サスケにだけはいつもヒナタは無防備なのだ。
 信頼されているのか、どうなのか…彼女からは全く窺えないが。
 後ろの大木にヒナタの身体を押し付けて深く深く口付けを繰り返す。

 強張るようにサスケの服を掴んでいたヒナタの手が緩んで、その手をサスケが己の肩に乗せる。段々と紅く染まるヒナタの頬に唇を移し、少し潤んだその瞳に唇を落とす。
 その、真白い瞳をまともに見てしまったのがいけなかった。

 サスケ自身は勝手に魔の瞳、と呼んでいるのだが。
 宝石のような輝きを灯すその瞳に、やすやすとサスケは引き込まれて、身体は何とも正直に行動に移す。
 それまでに木についていた右腕が、ヒナタの身体を求めて、つう―――と太ももをまさぐった瞬間に、ヒナタの身体がびくりと震えた。

 次の瞬間。
 まるで反射のようにヒナタの右腕はサスケの肩を離れ、暗部任務の時よりも早く空を切っていた。


 スパーン!!!!!!!


 素晴らしい音がして、サスケはものも言えずに吹っ飛んだ。
 ただの平手、されど平手。

「調子に乗らない!!!!!馬鹿サスケ!!!」

 顔を真っ赤にして叫んだヒナタの声が、サスケに届く瞬間には、もう既に彼女の姿は無かった。

「いって―――………」

 左頬を綺麗に赤くしたサスケがむくりと起き上がって、頭をかく。
 肉体と肉体の交流をヒナタが嫌っているのは分かっているし、いっつもキスまでで終わらそうとは思うのだが、ヒナタのあの目を見ると理性が飛ぶのだ。
 それはもう綺麗に。

「やっぱ…魔の瞳。反則だ…」

 不機嫌に呟いて、サスケはヒナタの後を追う。
 影分身に任せているので別に行く必要もないが、ここでヒナタと分かれると1週間以上は無視されかねない。

「大体、こんな時だけ"君"なしかよ…」

 それも非情に不満だ。
 ぶつくさと言葉を洩らしながら、サスケは下忍任務の場所へと急いだ。






 そこには楽しそうに笑いあうナルトとヒナタの姿があって、サスケの不機嫌度が上がったのは彼だけの知る話。
 2005年5月15日
 AYA様!お待たせしました!!
 大分遅くなってしまいましたが、7227リクの「スレサスヒナで表の任務と裏の任務」です。
 ちなみに「追う者」はサスケとヒナタ。サスケはヒナタを。ヒナタはナルトを。

 えっと、スレサスヒナなんですけど、ヒナタは単純にナルトに憧れているので
 …ヒナタにとってナルトは特別枠。
 サスケにとっては単なるお邪魔虫。面白くないらしいですuu
 それから…なんででしょう?
 私のスレサスのイメージは…エロガキ…?っぽいです。
 書きながら「おいおいおい君達何処まで行く気だ!?このサイトに裏はないぞ!?」
 と叫んでました。立ち止まれて良かった…uu
 ほんっとすみません。サスケがあまりかっこよくなくて…。
 こんなもので宜しければどうぞお持ち帰りください。

 7227hitリク、ありがとうございましたvv