「あ、はっ!はぁはあははっっ」
笑う声。
幼い子供が癇癪を起こしたような。
若い女が恐怖にひきつれてあげた金切り声のような。
どちらにしても不快そのものの笑い声。
笑い続けるのは一人の少女。
喉も裂けよ、と言わんばかりに笑い続ける。延々と。
どろりとした闇が、少女を覆い隠していた。
どろりとした赤が、少女を包み込んでいた。
闇に埋まる。赤に飲まれる。
少女はいない。
どこにも。
闇が、赤が、彼女をかき消す。
少女などどこにも存在しないと言わんばかりに。
「ははははっっ!!!はっ!はは、は…ははは!」
だから。
少女は笑い続ける。
永遠に。
『王に捧げられし贖罪の山羊よ』
「なに、してるの…」
「なにって?見れば分かるだろ」
確かに、見ればわかる。それでなくても、彼のすることならば自分が判らないはずはない。
相手にとってもそれは同義。
「それ、は…もう死んでいるよ」
「だから?」
ふ、と唇を歪めた金の髪を持つ少年。その髪は日に当たってさんさんと輝くのがふさわしいだろうに、今は血に汚れ、月明かりの中不気味な色合いに染まる。
一見して、元が人であるとは分からないような赤と黒の塊を見て、黒の髪を月に光らせた少女は、その真白い瞳を静かに伏せた。
不愉快だ。
少年は、なおもその蛋白質の塊を弄び、異常に伸びた爪と牙から暗褐色の雫を滴らせる。
空を、海を思わせる、澄み切った蒼は既にない。そんなものは消えうせた。
今、そこにあるのは赤に輝く血の瞳。餌を吟味する、絶対的な獣の王者。
獣の王者はくく、と笑って、爪に纏わりついた血を舐めとった。
これは人の上に立つ獣。絶対的な存在。
人を超えたもの。
吐き気を催すようなこの光景。そのくせ何処か妖しく美しく、人の心を震わせる。
そう。歓喜に。
にぃ、と笑った少年は全身に血を纏い、少女を振り返った。
黒の髪と真珠の瞳を抱く人間を。
あれ、は、餌だ。
九尾の狐という、少年の体内に潜む絶対的な獣の王者に対するスケープゴート。
他者の罪の為に王に捧げられし贖罪の山羊。
「来いよ」
威圧的な、逆らえない響き。
そう聞こえるのは、自身が彼に対する里からのスケープゴートであるからか、それとも単に彼に囚われているだけか。
消える。消える。
日向ヒナタという存在が。
世界にとって少女1人の存続など、獣の王者に比べればなんの損失でもないのだ。
少年の元へ歩み寄れば、むせ返るような血の芳香。
いつになっても慣れることのない死の匂い。
ぐ、と胃から食堂を通じて食物がせりあがり、つん、と異臭を伴い吐き出される。
血の上に、嫌な水音とともにそれは飛び散る。
少年は、目の前で起きた光景に眉を動かす、それだけの動作もしなかった。
ああ。これだからこの餌は愛おしい。
「ねぇ、ヒナタ。苦しい?」
満面の笑みを、少年は浮かべた。
それは、それは、楽しそうに。
顔中に他者の血を張り付かせて。金の髪を光に照らして。
「………な、る…と」
己の姿を映す間白い瞳に、見せ付けるようにして己の手にこびり付いた血を舐める。
口中に含んだ血液はそのままに、少女の半開きの唇に口付ける。
どろり、と血が流れた。口内に流れ込んだ血液は少女の呼吸を奪い、ついで入り込んだ少年の舌が血液を口内中に塗りつける。
半開きになったままの唇の端から唾液と血が交じり合って、だらだらと零れた。
少女の苦しそうな様子には目もかけず、少年は少女の暗部服の下へ手をすべり込ませる。
ひんやりとした、血にがさついた手の感触に、少女は悲鳴を上げた。上げたつもりだった。
だがそれは、少年の口の中で消えた。
やがて少女は未だ乾かぬ血の海に沈み、少年の闇に、赤に、消えうせた。
消えうせた。
…消えた。
闇で響く少女の笑い声。
私はここにいる。
ここに…
い、る?
ねぇ―――…私はここにいるの―――?
2005年11月13日
『黒の蝶 白の月 灰の華』のりんさんへ、相互記念小説です。
相互リンクありがとうございましたvv
何をするにも遅い私に比べて、とっても早く対応してくださって…感動ですvv
一応リクエストとしては…
『スレナルヒナで歪んだ心を持つヒナタにそれ以上歪んでいるナルト。
暗部任務終わりでの二人の会話』
だったのですが…気がついたら会話なんてほとんどありませんでしたuu
ど、どうでしょう…?
相互、本当にありがとうございましたvv
これからもよろしくお願いしますv