「バルレル」

 小さく、口の中で言ってみる。
 それだけでなんだかふんわりと気持ちが軽くなって、ほんのりと胸が温かくなる。
 これは一体なんていう感情なのだろう?

 本当は、ルウも気付きかけてる。
 何となく、きっと…トリスにとってのネスティ、ケイナにとってのフォルテ、モーリンにとってのリューグ、ミニスにとってのロッカ…それは、ただ仲間としてひとくくりにする相手ではなくて、ひどく特別な相手で。

 その相手が、ルウにとってはバルレルなんだ、って。
 でも、バルレルにとってのその相手は、きっとトリスだから。

 だから。

 この気持ちに気付いてしまう前に、忘れてしまえばいい。

「バルレル…」

 胸の前で握り締めたチョコの包装紙が、くしゃりと音を立てて、ルウは慌てて力を抜く。ほんの少し包装の崩れてしまったチョコを見て、その存在を改めて認識する。

「渡さなきゃ…」

 折角イオスが手伝ってくれて買ったものだ。ルヴァイドにもイオスにも渡した方がいいと言われた。
 だけど。
 どうしても最後の一歩が踏み出せない。

 多分バルレルはこの先にいるだろう。彼はよくそこにいて、一人くつろいでいるから。
 行って、はい、って渡して…何を話せばいい?
 何て言えばいい?
 迷う。迷ってしまう。折角ここまで来たのに、足がすくんで動けなくなる。

「………何してんだよおめーは」
「わっっ!!!!」

 背後から聞こえた声に、ぎょっとして、腕の中に抱えていたチョコを放り投げてしまった。そのチョコを、声をかけた主が軽い動作で受け止める。

「ば、ば、ば、ば、バルレルっっ!?!?」
「…おお」

 いつもよりも随分と高い身長で、ルウを見下ろしながら、バルレルは自分の受け止めた物に視線をやる。可愛らしい、というよりは、質素なほどあっさりとした包装。紙袋状になっている包装紙は少し歪んでいる。

「………チョコ?」
「え!あ…うん!」
「誰に?」
「へっ!?」

 いつもよりもやや据わった目で見下ろしてくる悪魔に気圧されて、ルウは冷や汗を流す。この威圧感はなんだろう。
 どうしよう。ひっそりと唇を噛み締めて、ルウはバルレルを見上げる。
 渡そう、と思う。けれど同時に、渡してもいいのか迷ってしまう。

「………」

 答えないルウに、バルレルは無言で包装をはがした。紙袋から姿を現したチョコを何の躊躇もなく口に放り込む。

「っっ!!!!!」
「…んだよ。お前も食うのか?」
「ば………バルレルの馬鹿!!!!!!」
「あぁ?」
「な、なんで勝手に食べるの!る、ルウのなのに…!」
「………ほー。お前、こんだけアルコールの強いチョコが食べれんのか?」
「そっ!それは…!」

 バルレルがお酒好きだから。
 絶対に自分では食べることの出来ないチョコ。
 それはたった一人の者の為に準備されたことは明白で。その褐色の肌を赤く染め、ルウはくるりとバルレルに背を向ける。
 自分のことで精一杯なルウは気付かない。チョコを口に含んだ瞬間、バルレルの顔がわずかに緩み、ぴりぴりと張り詰めていた空気が和らいだことに。

「…その…べ、別に!バルレルにあげようと思ったわけじゃないんだからね!」

 真っ赤に染め上げた頬を長い髪が覆い隠す。余りにも素直でないその態度。

「バルレルが勝手に食べたから…もうそんなのいらない!全部バルレルに上げる!」

 断言したルウに、バルレルは一瞬動きを止める。
 なんて素直じゃないのだろう。
 なんて可愛くないのだろう。

 けれど。

 ―――なんて愛しいのだろう

「………それじゃ、お望みどーり」

 もう一つ、アルコール度の高いチョコを口に含んだ。

「食ってやるよ」

 この、素直じゃない褐色のチョコレートを。いつか。
 焦る必要はない。今のところ、彼女にとって一番近しいのは自分だと断言できるから。
 ゆっくりとゆっくりと。前に進んでいこう。
 ふ、と、落とすように笑って、甘い甘いチョコととろりと零れる熱いアルコールを飲み下した。



 そんな2月14日の夜のこと。









「どういう意味の"食ってやる"だと思う?」
「ミモザ、分かってて言ってるだろう」
「え?ど、どーいう意味?」
「…君が知る必要はない」
「なーんて、言ってるけど、いつか手取り足取り優しくトリスに教えてくれる日が来るわよー」
「………っっ」
「?ネス?顔、赤いよ?風邪?」
「………………………!」
「おお。でこごっちんときたか。さっすがトリス。天然お馬鹿ちゃんねー」
「ミモザ…いい加減に…」



2005年7月16日

最後の方反転するとびっみょーーーなおまけが見られます。
と、いうわけで。
季節感マル無視のバレンタイン話完結です。
バルルウ、ネストリ、リュモリ、ロカミニ、フォルケイ、カザカイ、ルヴァアメ、ギブミモでした。
イオスがどうしても余りました…uu
この上記カプが大体自分的固定カプで、バルルウがマグルウだったりバルトリだったりです。
双子アメも結構好き。ユエルとパッフェルさんはカプなしで好き。レナードさんは…奥さん置いてきてるしねぇ…。あと誰だ?あ、シャムロックはシャムルウ好きですけど、婚約者?がいるそうなので除外。
バル以外の護衛獣は特にカプを考えたことないのでuu

っていうか…あああもう今一番最初を見直すと恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしい…×100っ!!!