空から落ちてくる涙
「うう〜、雨はきらい〜」
雨宿りのために飛び込んだハールーンの外套の下、濡れてる地面に足もつけたくなくてあたしはハールーンの腕につかまった。
ジンとなったあたしの身体は羽のように軽くて、重たくなんかないはずなんだけどハールーンは顔をしかめて言い放った。
「おまえ、邪魔」
「うう〜」
「雨が降り出すまでは平気そうだったのになぁ」
「だってー」
上空に砂漠では珍しい雨雲を見つけたとき、ジンにとって水は天敵ということも忘れてはしゃいでしまったことが悔やまれる。
あの時ならまだ、雨宿りをするとかテントを張るとか、やりようはあったはずなのに。
「ジンに雨は大敵。これ常識だろ?」
「あたしはそんな常識知らない!」
雨宿りの外套の隙間からハールーンを睨むと、彼は呆れた顔をしていた。
だってだって、ジンのジャニはつい1ヶ月くらい前までは普通の女の子だったんだよ?
雨なんて、怖くもなんともなかったんだから。
むくれて強く腕にしがみつくと、ハールーンはあたしが怒ったのかと思ったのか、話題を変えてきた。
「知ってるか?雨ってのは神様の涙なんだぞ」
「?」
「空の上にいる神様がな、泣くと地上に雨が降るんだ」
なにを言ってるの。
雨なんて空気中の水蒸気が集まって重たくなって重力に負けて落ちてくる現象に決まってる。
受験生やってたんだから、そこらへんの知識は自信がある。
不思議そうにしたのが伝わったのか、ハールーンが外套に隠れてるあたしを覗き込んで苦笑した。
「ジンは神様なんて信じないかもしれないけどな」
あたしはハールーンの顔を見つめながらゆっくりと首をふる。
ううん。今ではあたしだって、神様を信じてるよハールーン。
涙を流しすぎてジンになったあたしと、ハールーンを巡りあわせてくれたのだもの。
首だけになってうろたえるしかないあたしに、やるべきことを与えてくれたのだもの。
神様ってあたしをどん底に落としたり、救い上げたり、本当に不思議。
思わず俯いたあたしの頭をぽんぽんと叩いて、ハールーンは笑った。
「ま、そのうち晴れるさ。神様だって泣き続けてたら疲れるに決まってるもんな」
「早く、晴れるといいね」
泣き続けるなんて疲れるし、惨めだし、いいことなんてほんとないもの。
あたしは、神様が早く泣き止むことを願いながら、ハールーンの手をぎゅっとにぎった。