外に出たらまぶしいくらいの夕焼けで、それはとても綺麗なものだった









「晴れたねー」
「ええそうね」
「すっげーいい天気だよ」
「ええそうね」
「暇だねー」
「ええそうね」
「遊びにいこー」
「ええそうね」

 言質をとった瞬間、クロノはルッカの手を掴んでにっこりと笑う。
 全然聞きもしないで返事を返していたルッカは、いきなりのことに驚き、ようやっと目の前の本から顔を上げた。
 その一瞬の隙を見逃さず、本を取り上げる。

「ちょっ!! 何するのよクロノ!!!」
「遊びに行くんだよ。外に」

 平然と言って、本に栞を挟んでから机の上に置く。その本をとろうとするルッカの腕を捕らえて、そのまま引き寄せ、抱きかかえた。肩に両腕を置いて顔を上げたルッカは次第に離れていく本を目で追ってひどく切ない声を漏らす。

「クロノの馬鹿…」

 自分の身長をすっかり追い抜いてたくましく育ってしまった幼馴染に、力づくでこられたら抵抗できない。
 もっともそれを一番良く分かっているのはクロノ自身であるから、力を見せ付けるようなことは滅多にしない。
 だからこうして実力行使のときは、余程の理由があって。
 まぁ、なんとなく分かるような気もしたので、ルッカはため息をついて身体の力を抜いた。
 朝起きてから夕食を食べる時間帯の今の今まで、時間を忘れて本に没頭していた。クロノがきたのは昼を過ぎてからだが、ほとんど話もしていない。昼食もすっかり忘れていた。

「おばさんとおじさんが出かけてるんだから、もう少ししっかりしてよ」
「あんたにだけは言われたくないわよ!」

 クロノの肩を押して力が緩んだところで足を床へ振り下ろす。
 床に降り立って、いつの間にか随分と大きくなった幼馴染を見上げると、ひどく優しい眼差しをしていた。その眼差しは何故だか妙にこそばゆくて、視線を逸らす。
 頬がほんの少し熱いのは急に暴れた所為だろう。

「それで、どこか行きたいところでもあるわけ?」
「え、や、あんまりないけどさ。でも、外の空気吸って、飯でも食べようぜ」
「………少しは計画立ててから行動しなさいよね」
「ルッカこそ一日読書とか無茶だよ。昼ごはんも食べないでさー」
「う…うるさいわねー仕方ないじゃない最先端の理論が発表されたのよ? これを読まなきゃ科学者は名乗れないわよ」
「そういう話じゃないと思うけど」
「生意気言わない! ほら、外行くんでしょ、早く行くわよ」

 ついさっきまで本にかじりついていた人間とは思えないほど軽快な動作で、ルッカはクロノの手を引っ張った。その手のひらはいつの間にか自分の半分ほどしかなくなっていて、その事が無性に愛しく思い、ついついにやついてしまう。
 握り締めた返した手の平は温かく、導かれるままクロノは外に出た。
 今はもうすっかり夕暮れ時で。

「まぶし…」

 薄暗い部屋の中から急にまぶしくなって、ルッカは目を細めた。腕で目をかばいながらも空からは視線を離さない。
 真っ赤に染まった太陽がちょうど海に沈むところだった。海が太陽を反射して更に世界を赤く染める。

 ふと、手をつないでいることを思い出して隣の幼馴染を見上げた。
 夕日と同じ真っ赤な髪を更に明るく染め上げて、目をまん丸に見開いて空に魅入っている
 つないだ手の平はただただ温かく気持ちよくて。
 それが一度は失われたものだと、そう、思い出してしまうと、殆ど無意識に全身が強張った。力の入った手に気がついたクロノが、不思議そうにルッカを見下ろす。

「何?」
「…何でもないわ」

 一度は失われても、今はここにあるのだから。
 強く強く握り締めて、夕日へと視線を戻した。

 夕焼け空は矢張りとても綺麗で素晴らしいものだったから、ルッカは静かに笑って、今隣にクロノという存在が在ることに感謝を捧げた。