にお日さまが高く昇ってても、関係ないとばかりにあたしはカーテンを閉めなおした









 やわらかな春の朝日。
 ぬくぬくのおふとん。

 あたしが朝起きて一番に感じたのは、そんな世界につつまれて目覚める幸福感だった。

「うみゅー。まだねむい…」

 春とはいえ、朝はまだまだ寒くって、おふとんから出るのを躊躇してしまう。
 冷たい空気を頬に感じながら、首だけ起こして目で師匠を探した。

「あれ?師匠がいない…」

 いつもあたしのおふとんにいつの間にか入ってくる師匠がいない。
 枕元とか足元とか、お腹の上とかを探してみるけど影もかたちもない。
 先に起きたのかな。
 ちょっぴり心細さを感じながらあたしは暖かいおふとんを抜け出した。





「師匠ぉ〜どこお〜」

 あくびまじりで呼びかけながら自分の部屋を出ると、居間の方から師匠の声がした。

「ここだ。起きたのか」

 居間に通じる扉を開けるとテーブルの上に本を広げて、肉球のある前足でページをめくる師匠がいた。
 ちら、とあたしの顔を見てまた本に視線を戻す。

 師匠はゆうべあたしが寝るときに見たのと同じ姿勢で本を読んでいた。
 どうやら徹夜したらしい。

「起きたよ〜。一人にしちゃやだよ、師匠…」

 頭がまだ半分以上寝てるせいか、普段言わない言葉がするりと口をついて出た。
 いつになく甘えたようなあたしの口調に、師匠はちょっと驚いたような顔をしてあたしの顔を見た。

「あ、ああ…すまんな。朝までにはベッドに行くつもりだったんだが…」

 言って目をそらす師匠を見て、あたしは自分が何を口にしたのかようやく理解した。
 あ、あたしってばなに言っちゃってんだろ子供みたいなことを!

「と、とにかく!朝ごはん作ってくるね!」

 あたしは逃げるように台所へと向かった。






 台所でなんとか冷静になったあたしは、宣言通り朝ごはんを作ることにする。
 今日は、徹夜明けの師匠の胃を考慮して牛乳を使ったオートミールと、ゆで卵のサラダ。
 お盆の上にそれらを用意して居間の扉をたたくと、中からは「おう」という師匠の返事。
 扉を開けると、師匠はまだ本を読んでいた。

「師匠、いくら昨日待ちわびてた魔法書が届いたからって徹夜してまで読むことはないでしょ〜?」

 呆れの混じった口調でそう言うと、師匠はううむ…と生返事。
 もう怒ったからね!

「ごはんのときは本閉じる!」

 言いながら師匠が読んでいた本に栞を挟んでバン!と閉じた。
 目の前で本を閉じられた師匠は恨めしげな目をあたしに向けながら、しぶしぶといった様子で朝ごはんの前に座る。

「はい、いただきます!」
「……いただきます」

 朝ごはんを食べながらも師匠の視線はちらちらと本に向かう。
 徹夜で本を読んでお腹が空いてるはずなんだけど、それでも読みたいらしい。
 こんな風に貴重な魔法書とかが手に入ると読み終わるまで目の色が変わる師匠は、まったく魔女らしくない。
 魔女っていうよりもむしろ、魔法研究をしてる魔術師ってかんじ。
 目を離すと本を開こうとする師匠を睨みながら、あたしは朝ごはんをたいらげた。





「あれ、寝てる…」

 朝ごはんの片付けを終えて居間に戻ると、開いた本にあごをのせた師匠が熟睡していた。
 お腹がいっぱいになって眠くなったんだろう。
 徹夜もしたんだから、なおさらよね。
 師匠の知識欲が睡眠欲に負けた瞬間ってかんじ。
 あたしは笑いを堪えながら、師匠をそっと抱き上げた。

 抱き上げて運んでも起きない師匠をそっとおふとんに横たえて、あたしもその横にそっと滑り込む。
 師匠がいるとぬくぬくで、安心できていいなぁ。
 師匠と一緒にお昼寝する幸せに頬を緩めながら、あたしはそっと目を閉じた。