そうして少年と少女は朝日の眩しいの下、ゆっくりと歩き出したのだ









 目を開けたらやけにまぶしい光が差し込んできた。
 ひどく苦しい息を整え、状況を把握する。

 血の海だった。
 辺り一面の血の海。
 それはあまりにも的確な表現。

 その中で、仰向けに転がる少年と少女。
 服を、身体を、血の海に浸して、物も言えずに息を整える。
 
 任務終了、という言葉が頭に浮かんだ。
 静かに、少女は隣の少年へと首を傾ける。
 少女の柔らかい蜂蜜色の髪は血でべとべとに固まり、微動だにしなかった。
 空を見上げていた少年もまた、少女の方を向く。
 目が合って、お互いの散々な状況を確認しあって、小さなため息。

「……疲れたわー」
「…奇遇だな、俺もだ」

 血の海が光を浴びてきらきらと輝いていた。
 次第に固まってきたそれらを身体中から引き剥がし、少女は起き上がる。

「朝になっちゃったわねー」

 視線の先は、あまりにも神々しく輝く太陽の光。
 2人、力なく笑って立ち上がって、手を取り合った。
 今日、これから数時間後には任務があると分かっているから。

「ねーサスケくん」
「なんだ」
「今日、合同任務だったわよねー、たしかー」
「7班と、8班と、10班のな」
「あー…めちゃくちゃさぼりたいわー」
「………」

 言葉に出す事はしなかったが、それはサスケも同意見のようで眉をしかめたまま頷く。
 下忍任務、暗部任務、ここ数週間立て続けに入ってまともに休めた記憶がなかった。

 今の火影は、サスケといのが暗部だと知らない。
 暗部の中には2人以外にも下忍がいるが、サスケといのは、元々火影しかその正体を知らない暗部だ。書類上も正体不明で通っている。

 そんなあからさまに怪しい忍でも、実力と実績さえあるなら、使うしかないほど今の木の葉は切迫している。

「報告書はーサスケ君にお願いしていいかしらー? 私はもうシャワー浴びて寝たいわー」

 サスケの腕にすがりつくようにして歩くいのを見て、不意にサスケはしゃがみ込む。急にバランスを崩されたいのはきょとんとして立ち止まった。説明を求めるようにサスケを伺うと、血みどろの少年は背中を無防備に晒して、その体制で振り返る。

「…乗れよ」

 ぼそりと呟いたサスケに、ゆっくりしっかりといのは考えて、目を瞬かせる。
 少女の緩慢な動作に、少年は眉をしかめ、照れくさそうに前を向いた。それだけ柄じゃない事をしている自覚はあるのだろう。

「…あー……サスケ君ー?」
「なんだ……」
「すっごく似合わないわー」
「………」
「あ、嘘よ、うそー。だからちょっと待ってー」

 耳を真っ赤にして立ち上がる少年の腕を引いて、その背に乱暴に飛びついた。
 疲れ果てている少年はぐらりと崩れかけながらも、なんとか踏ん張る。
 よっこいしょ、とでも言い出しそうな、やけにジジくさい仕草で少年はいのの体重を支え、支えた。
 しっかり背負ってしまえば、そんなに負担はない。
 ただ問題は。

「……いの、髪、くすぐったい」

 長い蜂蜜色の髪は、下忍時の時のように高い位置で結ばれていない。いのが暗部任務を行う時はいつもそうだ。サスケが下忍時と同じ武器具を使わないように、本人にしか分からないこだわりがあるのだろう。
 そのいのの首筋から流れる髪がサスケの首元でふわふわ揺れるし、鼻先をくすぐる。
 サスケの抗議にいのは全く構わず、首筋にきつく腕を回して笑う。

「…笑うな、くすぐったい」

 抗議に、更にいのは笑って。
 不機嫌な顔をしていたサスケも言うだけ無駄だと諦めて。


 そうして少年と少女は、これから訪れる下忍任務までのほんのわずかな時間だけ、仕事の事も報告書のことも忘れ、ゆっくりと歩き出した。