が白むまで









 雪もないのに底冷えがする、とある冬の夜のこと。
 幾重にも布でくるんだほかほかの湯たんぽを抱えて、部屋のふすまを開けた六姫はあら、と声を上げた。

「もう寝ちゃってたの?」

 呼びかけるその声にも応えはなく、六姫は相手がすでに熟睡していることを悟った。

 部屋の中央には、もうあとは寝るだけ、というくらいに整えられた布団。
 その枕元に、本来の姿に戻った彼女の夫がとぐろを巻いている。

 一番太いところは六姫の手首以上。
 長さは六姫の身長よりも長い、美しい白蛇である。

 抱えていた湯たんぽを布団の足元に入れ、六姫は白蛇――白比佐の横に膝をついた。
 指で頭をつんつん、と突いてみる。
 布団の上でとぐろを巻いて眠る白比佐はぴくりともしない。
 冬になって寒くなるとまるで死んだように眠るというのは夫の一族の特徴であるのだけれど、冬でも元気に動き回れる六姫にはつまらないことこの上ない。
 夫に構ってもらうのをあきらめた六姫は、今日はもう寝てしまうことにした。
 よいしょ、と掛け声をかけて白比佐をかけ布団の中に押し込む。
 六姫も、白比佐の反対側から布団に入る。
 事前にいれておいた湯たんぽのおかげで中は程よく暖まっていた。

「ぬくぬく〜」

 幸せそうに呟いた彼女は腕を伸ばして白蛇を抱きしめる。
 変温動物である夫は、冬は水にさらした柳の枝のようにかたくて冷たいけれど、六姫は必ずこうやって眠る。
 一生懸命あたためれば、朝、白比佐は極上の笑顔を見せてくれるから。

「早く朝になればいいのに」

 太陽が昇って暖かくなれば、白比佐は目を覚まして六姫を見てくれるのに。

「早く春にならないかなぁ」

 そうすれば白比佐は元気になって、一緒に散歩に行ったり、おしゃべりをしたり出来るのに。

 六姫の体温で少しずつあたたかくなる夫を抱きしめながら、六姫は早く春が来て白比佐が構ってくれるようにならないかと、毎夜のごとく思うのであった。