それはとにかく突然にやってきた。
いい意味ではなく。
悪い意味のほうで。
「「はい?」」
重なった声は、同時だった。
『衝撃の事実は突然に』
現実は甘くなんてない。
忍になりたかった母と父はその夢叶うことなく死の床に着き、忍になんてなりたくなかった私だけが忍になった。
母も父も居ない世界で、なんの後ろ盾もない子供が平穏無事に生き延びれるなんて絵空事、起こるはずがないのだ。
保護者の死んだ私は孤児院に預けられ、一人の男に拾われた。
情があるわけでもなく、ただ、自分の役にたつためだけに拾われた。
男は忍で、多分、木の葉ではなく、他里の忍だった。
様々な諸国を巡り、血の匂いは常にそこにあった。
男に育てられるうちに、私は強くなった。
毎日が、戦闘で、自分の身は自分で守らなければならなかったから。
男が殺した忍のクナイや爆薬を自分の物にして、男にチャクラの使い方を教わってからは、男や敵の術を見様見真似で使って、会得した。
才能はあったのだろう。運も強かった。
だから、生き残れた。
男は嫌いだった。ただただ憎悪の対象であった。
けれども子供が一人で生きることは出来ない。
自分のために、男が必要だった。
けれども。
男を超える力がついたなら…。
「お…まえ……」
「私を、生かしてくれてありがとう」
それだけは、感謝しているから。
それから止めをさした。
男が好きな殺し方。四肢の動きを奪った後、首を刈る。
決別の、時だった。
多分、しばらく呆として、何者かの気配が近づいていたから、全ての武器を己に隠して、男にしがみついて声を殺して泣いている風に装う。
「…悲しいのか」
予想外に、若い声だった。感情を忘れたような冷たい声は、嘲りさえも感じた。
わずかに驚いて、私は男を見上げる。涙に濡れた眼と身体中にこびり付いた男の血。
視線の先に居たのは、真っ黒ずくめの男だった。
木の葉の暗部だ―――。
男は、笑っていた。
「何故…笑っているの…」
不愉快だ。不愉快だ。
ここは、連れを殺された子供に同情するべき場面だろう?
笑う理由などどこにもないだろう?
「…面白いからな。自分で殺しておいて、それでもなお利用するお前がな」
「………」
「あと、その強さもな。餓鬼のくせして大したもんだ」
身体中に仕込んだ刃を易々と交わされ、腕をとられる。
「生かしてやる。木の葉の暗部になれ」
悔しいことに。
ほんっとうに悔しいことに、圧倒的に男の方が強かった。
そして私は忍になった。
世界はとっても汚くて。
私にはとても住み心地がいい。
とっくの昔に死んだ両親と。
その人形と過ごす私。
人形といっても、魂は彼ら本来のもの。
ああ。もしかしたら彼らは死んだことに気付いては居ないのかもしれない。
死んだ直後の魂を私が捕らえて、適当に見つけた人形を見繕って、両親の顔を作った。
両親の人形と一日を過ごして、アカデミーに行って、普通の子供として今を生きる。
そして、夜は世界を飛び回るのが好きだった。
世界はとても汚くて、その世界を見るのがとても好き。
ほら、あそこでは金色の子供が大人に囲まれて血を流す。
ほら、向こうでは親に見捨てられた子供が家から締め切られて涙を流す。
世界はこんなにも汚くて、けれどもそんな世界が…私には愛しい。
その汚らわしさが、私にそっくり。
「子供か?」
声は唐突だった。
正直、驚いた。だって、まさか私の後ろをとれる人間がいるなんて、思わないじゃない?
暗部だって、簡単に殺せるんだもの。
振り向くと、意外にも若い、真っ黒尽くしの男。
暗部の服。
少し、興味を覚えた。
男も世界の汚いものの1つだ。
ほら、その手はそんなにも赤いもの。
くすくすと笑う私に、男が手を差し伸べる。
なぁに?
「暗部になれ」
あら。命令形なのねー。
くすくすと笑った。
暗部になったら、きっともっと汚いものがたくさん見れる。
もっともっと私にとって住みやすい。
「いいわよー」
だから、私は頷くのだ。
差し伸べられた手をとって、私が私であり続けるために。
面白いね
面白いね
彼女は世界を憎む。
憎んで、嫌って、けれども己の生にしがみつく。
彼女は世界を愛す。
慈しんで、愛して、己の生を生きる。
どちらも始まりは同じなのに。
世界を憎む少女は、父と母を失って、全てをうらんだ。
世界を愛す少女は、父と母を失って、全てを求めた。
始まりは同じ。
違う道を歩いて、違う考えを抱いて、けれども同じ道に戻るのだ。
ただ、生き延びるために。
ただ、自分が自分であるために。
面白いね。
面白いね。