そこに立っていたのは、確かにサクラといのを暗部へと連れ込んだ張本人で…悪趣味極まりない暗部名を勝手につけた挙句、本当にそれで登録した人間であった。

 いわく

「髪がピンクだし、お前今日からピンク。拒否権なし」
「声がきんきんしててうるさいし、髪も金だから、お前の名前はキンキン。拒否権はなし」

 とのことで。

 その際巻き起こった嵐のような戦闘は勿論男の勝ちで。
 サクラがぼろぼろに蹴散らされた後に目を覚ますと、男の姿は既に無くて、顔やら身体やらいたるところににピンクの口紅をもって、お前の名前はピンクと、延々と書かれていた。
 いのはいので、最終的に幻術の中に閉じ込められた後、自分の姿をした大量の幻覚に「貴方はキンキン。私もキンキン」と妙な節をつけて迫られ続けた。
 ありえないほどに情けない、そのくせ一生涯で忘れることなど出来ないトラウマになっている。

「な、な、な…!!!!!」
「ああああああんたたちーーーーーーー!!!」

 なにやらその姿はとんでもなく嫌な思い出をくすぐるのか、いっそ哀れなほどにサクラといのの顔が歪んで。
 ダッシュで逃げようと方向転換及び足へのチャクラ集結を行い…。



「「逃げたら一週間幻術の森に突き落とす」」



 ………諦めた。


「ごめんなさいすみません勘弁してください」
「逃げない逃げない逃げない逃げない逃げないーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!」


 ひぃぃ!と男の顔色を涙目で見上げる姿に、またも爆笑し始める。
 こいつらは悪戯が生きがいで、やると言ったなら必ず実行することをサクラといのは知っている。
 まさか、その男が2人居るとは思いも寄らなかったが。

 と、いうか、こいつらがナルトとヒナタとはどういうことだ?
 ようやくサクラといのの頭はそこに戻ってきた。

「ナルトとヒナタ、なのよね…?」
「そ、そうよー…!っていうかお願いだからその姿止めてーーーーー!」

 見ているだけで過去のトラウマが次々と蘇ってくる。
 どれもこれも一生涯記憶の底に封じ込めて、思い出したくなんてないものばかり。
 気が付けばいのとサクラ、2人仲良く身体を抱き合っている姿に、くすくすと笑って、全く同じ姿を持つ2人はナルトとヒナタの姿に戻った。
 少年と少女の幼い姿に、ほっとしてサクラといのはへたりこんだ。

「久しぶりだね。ピンク」

 そう言ったのはナルト。

「久しぶり、キンキン」

 そう言ったのはヒナタ。

 その言葉のアクセントや、感情の込め方が、嫌になるほどばっちりと黒ずくめの男の者だった。
 これ以上にない、証明だった。
 ナルトとヒナタが彼女らの知る男であるのだという。

「あああああ……」
「………いーやーだー!」

 頭を抱え込んだ2人の姿に大爆笑。

「ピンクとキンキンに上忍命令。今すぐ上忍と下忍の記憶を消しなさい」
「早くしないと目、覚めちゃうよ」

 2人の言葉に、サクラといのは素直に従った。
 嫌な思い出の男が2人。…最悪だ。

「2人とも素直じゃないの。ねーナルト君」
「そうそう。本当は結構気に入っているくせにな」

 誰がっ!と言いたいのを、ぐっとこらえるいの。
 だが、サクラはついつい叫んでしまう。

「気に入ってない!」

 返事はぴったり同時。

「「嘘つき」」

「サスケ君のよわっちくて、必死で、天涯孤独で、でも恵まれてて、純粋なところが嫌いで、そんでもって好きなくせに」
「カカシ先生の心配性で、バカっぽくて、とぼけてて、優しい目をしていて、温かくて、そんなところが大好きなくせに」
「さっきだって本当は受け入れてもらいたかったくせに」
「昔のピンクなら任務失敗だろうとなんだろうと、嫌いなら放って置いたくせに」
「素直じゃないね」
「そんなところがピンクは可愛いの」
「親バカだね」
「ピンクは可愛いからね」
「キンキンも可愛いよ?」
「うん。知ってる」

 あーとかうーとかうなりながら、口を挟む隙間も見つけ出さず、ついつい口をだしてしまった自分への自己嫌悪に沈むサクラの肩を、いのが叩く。

 どんまい。

 …ありがとう。

 迷惑極まりない事に、彼らにとって、サクラやいのをいじめるのはどうやらただの愛情表現らしい。
 何となく気付いてはいた。気付いてはいたが、迷惑な事に代わりはない。

「でもナルト君が一番だよ」
「うん。知ってる」

 しれっと惚気はじめた2人に、サクラといのは大きく大きく息をついた。
 まさか、ナルトとヒナタがこんな性格だったとは…。
 誰か助けてください。いや本当に。

 いやでもしかし、こんな2人を止められるような人間がこの世にいるのだろうか?


 ………絶望的だ。


 あの火影すら、黒ずくめの暗部にやり込められては怒っていた。

「ねぇ、サクラ」
「何よいの」
「あんたも要するに暗部だったのよね。そんであいつのどちらかに育てられたのよねー?」
「そうよ。あんたもそうなのね」
「ま、なんって言うのー?こういうこというのも可笑しい気がするけどー」
「何よ?」
「友達になりましょー?」
「はぁ?」
「っていうか同盟くみましょー?正直…私だけであんなやつらとやりあう自信ないわー…」
「…確かに。そうね。それもいいわね…」
「っっし、さて、とりあえずはー」
「ふふ。分かってる」


「「…地の果てまで逃げ切りましょう!!!!!!!!!!!!!!!」」


 キラキラしい台詞を言い切って、脱兎の如く逃げ出した。
 あ、と言う間にいなくなったサクラといのの消えた辺りを見て、ナルトとヒナタは、それはそれはよろしくない満面の笑みを浮かべた。
 それこそ逃げた2人が見れば、本能的に無条件降伏をしてしまうような、そんな、輝かしいばかりの笑顔。

「鬼ごっこだね。ナルト君」
「そうだね。ヒナタ」

 ナルトがパン、と手の平を叩く。
 呼びかけに応じて現れたのは何故か現暁メンバーイタチとサソリ。

「「何か」」
「ピンクとキンキンと遊んであげて」

「「御意」」


 ピンクとキンキンが、ふらふらになってナルトとヒナタの元に帰ってきたのは…言うまでもない。
2005年11月12日
こういうノリも好きなんです。 我が家のナルトとヒナタは大抵最強v