くくっ、と笑ったテマリに、我愛羅とカンクロウは不思議そうに視線を合わせた。
この3人、実はとても仲がいい。
家族以外は信用していないので、周囲には演技しているだけ。
砂という大地はそれが必要な土地。
「テマリ、いい事でもあったのか?」
「そうじゃんよ。あの女に呼び出されてからずっとにまにまして気持ち悪いじゃんよ」
そう、1人の少女がいきなり姉弟の前に現れ、テマリと話がしたいと2人で去っていったのだ。
テマリは帰ってきてから何があったのかは言わないが、とても機嫌がよさそうだ。
「ほほう?気持ち悪いとは長兄に向かって結構なお言葉だな」
女の姿で、ふっ、と唇を吊り上げたテマリ。
中身が男であるからか、とても男っぽい仕草。けれども外側は女そのものなので、非常に中性的な不思議な魅力を放っている。
それに騙される女も男も等しく大量にいるのを2人は知っている。
大体にして、元々の造作が綺麗なので、男としても女としても目を惹かれずにはいられないのだ。
それに加えて彼自身は女好き。
女の格好であるので女に近づくのに不都合もない。
結局相談を受けるのはカンクロウであるから、彼自身としては無節操に手を出すのは止めて欲しい…。
「それで、どうしたんだ?」
末の弟である我愛羅は、里人からは恐怖の対象としか見られないので、そういったカンクロウの苦労は全く持って関係のない話だ。
こちらは何もしなくても向こう側から逃げていく。
それを寂しいとか悲しいとか思った時期もあったが、自分を分かってくれる家族がいるのだから、まぁいいか、と思う。
「俺が男だって、ばれた」
それぞれ頭の中で色々と考えていた弟の2人は、兄の言葉を受けて、不覚にも固まってしまった。
実は砂で暗部として働く2人としては、非常に不本意な事に、今の彼らの状態はとっても隙だらけだった。
ぽかんとしている2人に、テマリが笑う。
「それで、計画の一部、ばらした」
硬直のとけかかったところに、もう一つ、爆弾を投下してみた。
彼らの頭にその言葉の意味が理解されるまで、どうやらかなりの時間が必要だったらしく、しばらく静かな空間をテマリは楽しんだ。
窓際で外を眺めれば、己の次の対戦相手とその仲間の姿が見えた。
自分たちが泊まっている前の焼肉屋は、どうやら彼らの行きつけらしい。
テマリたちも行った事があるが、安いわりにボリュームもあって中々おいしかった。
そういえば山中いのをテジナは気に入ったと言っていた。
他の2人は彼の趣味ではあるが、好きな男がいる奴は対象外とのこと。
確かに山中いのの場合はうちはサスケとやらが好きとは言っているが、本音は春野サクラを繋ぎ止めたいだけであろう。
テジナもだが、テマリは観察眼が鋭い。
それはカンクロウと我愛羅にも言えることだが、テマリとテジナは更にずば抜けている。
何回か会っただけで、大体の人間関係を全て把握してしまうほどに。
サスケはサクラに安らぎを感じ、いのに同士としての喜びを感じている。
今いのがサスケから手を引けば、サスケは確実にサクラの元へ行くだろう。
双子の弟が本気でいのを好きになったと言うのなら、協力でもしてやろうか。
「「て、テマリ!!!!!!」」
ようやく硬直から抜けたらしい弟達の声に、テマリは振り返った。
ピッタリと合わさった声に笑う。
「なんだ?」
「どういうことじゃんよ!今回のは極秘任務!砂と音の戦いじゃん!」
「木の葉を巻き込むな、と父様が言った」
2人の言葉に、テマリは顔を引き締めた。
テジナから手に入れた情報を彼らに与える必要がある。
テマリとテジナは必要な情報をいつでも交換できる。
魂の一部が繋がった状態とでも言おうか?
言葉はなくとも、相手がすぐそこにいなくとも、なんとなく情報をリンクさせることが出来るのだ。
だからこそ、風影はテマリを火の国へ行かせ、テジナは砂に残した。
どちらの状況も把握するために。
「父様は確かにそう言ったが、事情が変わってきた。大蛇がこっちに来る」
「はぁ!?」
そう、本来は彼が国に現れた時に始末をつけるはずだったのだ。
だが、大蛇丸は意外にも用心深く、中々砂には入ろうとしなかった。
音と砂とで木の葉を落すという作戦の中には、我愛羅の動きもあるので、砂の3姉弟は中忍試験に出向くほかなかった。
「テジナからの情報だ。砂に奴がいるうちに決着をつけることは出来ない。砂の裏切り者達によって父様は監禁状態にある」
テマリの言葉に、弟達は腰を浮かした。
「っっ!!父様がっ…!!」
「!!!!…待ってテマリ。テジナは?テジナが父上には付いていたはずじゃん」
「音を、探っていたんだよ。代わりに父様には夜叉丸が付いていた」
「待つじゃん…!それじゃあ夜叉丸はどうなったじゃんよ…!!」
「安心しろ。無事だ。重態ではあるが、母様の下にいる」
既に死んだ、とされている母と夜叉丸は、今は影でテジナと共に動いている。
元々高い戦闘能力を誇る2人であり、医療技術は最高峰。
里に縛られぬ忍である彼らは動きを束縛される事がない。
今回音が大蛇丸に支配されているのを掴んだのも彼らだ。
「そうか…良かった」
「安心したじゃん…母上なら確実じゃん」
安堵の息をついた2人に、くくっとテマリが笑った。
「安心するのは早いな。まだこれから父様を助け出す算段をしなくては」
「そ、そうじゃん!テマリ!それがどうしてあの女にばらすことになるじゃんよ!」
「しかも男だとばれたと言ったか?大丈夫なのか?それは」
「大丈夫。向こうも隠し事が多い」
彼独特の感覚でそう自慢げに言われ、2人は首を傾げた。
テマリの考え方、それはテジナととてもそっくりで、彼ら同士では難なく共感できるものらしいが、自分たちにはさっぱりと分からない。
それが少しだけ寂しい…というか疎外感を感じてしまわなくもない。
「まぁ、それで、具体的にはどうする?」
「木の葉の協力を願う」
「だから、それをどうするか聞いてるじゃん」
くくく、と笑った彼らの兄上様は、これ以上もなく楽しそうで、我愛羅とカンクロウは嫌な予感を覚えるのであった。
「姉さん!?」
「ひ、ひばり?どうしたの?」
「あいつに何もされなかった!?大丈夫!?」
勢い込んで、ヒナタの肩を掴んだヒバリは、全身を確認する。
ヒナタは何故彼がそんなにも焦っているのか分からなくて、きょとんと首を傾げるだけだ。
「ヒバリ。私は大丈夫よ?落ち着いて。ね?」
そうにっこりと微笑まれてしまっては、ヒバリの焦りもどこかへ吹っ飛んでしまう。
「うん。姉さん」
にっこりと、笑顔を返した。ヒナタは自分に嘘をつかない。
第一ヒナタに何かあれば自分にも分かるのだが、ヒバリは心配するあまりにそれすらも忘れてしまうのだ。
ととん、と、軽い音が聞こえて、2人は振り返った。
音の正体は分かっている。
自分たちに気付かれずに、これほど近くまで現れることの出来る人間はとても少ないから。
「ヒナタ。ヒバリ」
「やっほ。2人とも。仲良いことだね」
呼びかけられた2人は、全く同じ笑顔を彼らに向けた。
数少ない、自分たちが心より信頼する者達。
「「ナルト。テンテン」」
合わさった声に、接点などないはずの2人の下忍は、笑った。
2005年10月22日