『木の葉の銀獣』


   〜強く在れ〜









 声を発することができたのは彼ら上忍ではなく、3人を仲間だと信じていた下忍らの方。

「な…によ…ど−いうことよっっ…ナルトぉ!!!!」

 と、サクラが叫べば

「ナルト…お前…一体……」

 と、サスケが呆然と言葉を落とす。
 その魂の抜けたような顔にナルトが笑う。
 声を立てずに、静かに静かに…そして綺麗に笑う。
 一片の曇りもなく、鮮やかに。

「分かんない?こーいうこと」





「シカ…マル……なの…よね?」

 と、いのが聞けば

「シカマル…」

 と、チョウジが首を傾げる。
 ただ名前を呼ぶことしかできないように。
 茫然自失…といった2人にシカマルが笑う。
 楽しそうに、けれど静かに…深く笑みを刻む。
 ひどく冷たく、けれど鮮やかに。

「分かんない?こーいうこと」





 2人の返事は同時だった。
 やけに印象を酷似させた2人は、更に笑みを深める。

「俺は暗殺戦術特殊部隊―――木の葉の銀獣が一人、銀赤」

 と、ナルト。

「俺は暗殺戦術特殊部隊―――木の葉の銀獣が一人、白金」

 と、シカマル。

 自らの暗部名を、誇らしげに…愛しく名乗る。
 彼らにとってのそれは、ただの暗部名ではなく…特別な名前なのだ。
 それはヒナタにとっても同じ。

「それで私が暗殺戦術特殊部隊―――木の葉の銀獣が一人、蒼黒。だよ」

 いつものものとは全く違う…けれどもひどく暖かく、柔らかな笑みをヒナタは浮かべた。





「ええっと…それで里の最高重要機密なそれを知った、オレ達はどうなるのかな?」

 全くもって気の抜けた声で、カカシは頭をかきながら問う。
 3人はどうする?と言うように、顔を見合わせ、最終的にヒナタを見る。
 任せた。と。
 ヒナタは頷く。結局のところ、この3人の中心はヒナタであるのだ。

「先生方はそのままです。いい加減知っていてもらったほうが、任務がやりやすいですし、中忍試験はちょっとややこしくなりそうですので」
「任務…?」
「"秘術"を受け継ぐ子供達の守護。そして"うちは"の生き残りの見張りと護衛ですよ。紅先生」

 その"子供達"にちらりと視線をはしらせて頷いた。

「…なるほどね…」
「それで下忍はどうする気だ?」
「下忍は記憶を消させていただきます」

「なっ!!ちょっと!!」 
「ま、待ちなさいよー!!」

「サクラちゃん。うるさいってばよ?」
「いのも黙れ。うるさい」

 いつもとは全く違う声音で、冷たく纏った雰囲気で、少年達は言う。
 ヒナタの邪魔をするなと、その目が言っている。

「下忍は知っていると、どうしても態度にでるでしょうから、それでは私たちが困ります」
「…確かにな」
「別に上忍方も、消してもらいたいのなら構いませんよ?強制はしません。知るということは、それだけの重荷を貴方達にも背負わせると言うことですから」

「………だってさー。どうするー?お二人さん」
「私は構わないわ。ヒナタのこと、これでも気に入ってるのよ?あんたもそうでしょう?アスマ」
「…ま。しゃーないでしょ。俺もいいぜ。シカマルのこと結構気に入ってるからな。お前も分かってるくせに聞くなよな。カカシ」
「やっぱり?オレも構わんよ。やーっぱ、部下のことは知ってなきゃデショ?」

 その返答に、どこか苦虫を噛み潰したような顔になったナルトとシカマルの2人に、ヒナタが笑う。何かと構う上忍らを、彼らが多少疎ましく思っているのを知っている。

 だが、それはきっと慣れないため。
 無償に与えられる愛情を、彼らは受け止める術を知らないだけ。
 だから対応に困って、持て余してしまう。



 複雑な表情をした2人の代わりに、ヒナタは上忍の3人に笑顔を向けた。
 それは、いつものものとは全く違う、深い深い笑み。憎しみも、虚偽も…汚いもの全てを飲み込んで、それでも柔らかに、全てを許容する温かな笑顔。
 カカシやアスマは言うまでもなく、女の紅でさえ、惚れ惚れとするような、綺麗な笑みだった。

「ひ…ヒナタ!!その顔は駄目だって!!反則だって!!」
「そ…それは、頼むからオレ達以外には見せないでくれっ!!!」

 その笑みに気付いたナルトとシカマルの、ひどく焦った声に、ヒナタは首を傾げた。
 自分の笑みがどれだけの破壊力をもつのか、彼女は全く分かっていない。

「あああああ!!そこの上忍2人!!年甲斐もなく顔赤らめてんじゃねぇ!!!!!!」
「きしょい!!きしょいから!!この変態上忍ども!!!!!」

 指差し、己の担当上忍である人間達から、ヒナタを守るように、2人は彼らの前に立つ。
 ヒナタの笑みにやられている下忍たちがフリーなのは、記憶を消すからであろう。

「消したい!紅せんせー以外の記憶を全部消したいっ!!!!」
「ナルト…オレは今だけはお前の味方だ!!」

 ひどく、挙動不審になっている2人に、上忍も下忍も、唖然とするしかなかった。
 既に、彼らの冷たく纏う空気は消え去って、普段の彼らのような雰囲気を纏っている。
 だが、それでも彼らは本来の力を抑えておらず、その力は上忍にも下忍にも伝わってくるのだ。

 ある意味では、彼らが彼らであるという証明のようだった。

「2人とも落ち着いて。シカマルの術が切れちゃったら、元も子もないんだよ?」


 ―――!!!!!


「…あうぅ」
「…あぁあああ」

 ヒナタの言葉に、よく分からない言葉を2人は残して、それでもやるべきことをするために、己のチームメイトの元へと向かう。
 ヒナタに背を向けた瞬間に彼らの表情と空気は一変する。
 冷たく、硬い、彼らの知る少年とは違うものへ。



「―――っっ」
「………来るな…」

 涙目の少女を庇うようにして、サスケはナルトに向き合う。
 その顔には、未だ深い恐怖と混乱が渦巻いている。

 ナルトは笑う。
 下忍のものではなく、銀赤の笑い方で。
 冷たく綺麗に。

「何か今のうちに言うことはある?」

 最後の慈悲だよ?
 と、少年は言う。
 その様は、自分達の知る彼となんて違うのだろう。 
 自分達の知る彼は、うるさいほどに元気で、明るくて、火影火影と夢ばかり見ていて…それでも最近見直してきていたのに。

 その全てが嘘…だった。
 自分の気持ちすらよく分からなかった。
 でも、言いたいことはあると思う。
 考えるよりも先に、口が出た。

「…この…ウスラトンカチのバカヤロー」
「…はい?」
「何で黙ってた」
「だって、サスケもサクラも弱いじゃん。だから態度にすぐ出ちゃうし。それにオレ、あんた達のこと信用してないもん」

 あんまりにもあっけからんとした答えに、サスケは毒気を抜かれる。
 確かに今見せられた、彼の実力に比べれば、自分など足元にも及ばないだろう。

「…だったら、何であそこまでドベな演技してんだよ…もう少し強い演技でもいいじゃねぇか…」
「それはできないって。オレ、里に殺されたくないもん」
「どう…いうこと…だ…?」
「それも超極秘情報だってば。サスケー。人に聞いているばっかりじゃ駄目だってばよ?イタチのことももうちょっと探ってみ?色々出てくんぜ?それから、もうちょっと素直になったほうがいいってばよ。サクラちゃんに愛想付かされても知らないってばよ?」
「なっっ!!!!!!」

「サックラちゃんもさー。押し付けるばっかじゃうざいよ?サスケの悩みの1つや2つくらいどーんと受け止めるようにしなきゃ」
「っっうるさい!!!」
「サスケの趣味って知ってるー?サスケって実は年上好みなんだよ?だからもっと頼れるおねぇさんになんなきゃー」
「っな!!なんでお前がそんなことを知っている!!」

 思わず口走ってから、己の口を押さえる。
 これではナルトの言葉を証明したようなものだ。

「サスケ君そうだったの!?」

 サクラの言葉にナルトが笑う。
 いつものように、ドベのうずまきナルトの笑い方で。

「だってさー。俺銀赤だし?もうバレバレ」
「せっ!説明になってないわよ!!!」
「でもまー…。忘れるからいいしょ」

 今度は銀赤の笑い方で、ナルトは笑った。
 笑いながら印を組む。
 サクラはそのナルトの行為にびくりと身を震わせ―――。

「本当に…消えちゃうの…?」

 震える唇で呟いた。

「うん。欠片も思い出さないよ」
「………なんか分かんないけど…すんごいムカつく」
「右に同じ」
「って言われてもねぇ?まぁ、さ。強くなんな。俺を倒せるくらいにな」

 にっこりと笑んだその顔は、彼らに対する特別な感情がないだけに、ひどく透明で綺麗だった。
 それは彼らに対して、ナルトが何の感情も抱いていないのがひどく明白で…だから、サスケとサクラは思った。

 絶対にこいつを抜いてみせる―――。と。
 俺達のことを嫌でも意識させてやる―――と。

「絶対に越してみせる」
「強くなるわよ!あんたなんてすぐ抜いてやるんだから!!」

 その答えはいささか予想外だったのか、一瞬驚いたような顔をして、ナルトは笑った。
 うずまきナルトとしての笑い方で、にっ―――と、不適に笑って。

「やってみな―――」

 術が完成した。
 崩れ落ちる身体を見ながら、ナルトは笑う。
 冷たく冷たく。

 やってみな。
 待っていてやるから、強くなりな。

 そう思って、笑った。








「ねぇ…これどーいうことよー…」
「シカマル…強かったんだ…」
「ん。まぁなー。黙ってたのは悪かったけどよー。目ぇ覚ます頃にはなーんも覚えてないから勘弁な」
「冗談じゃないわよー!!!」
「はい?」
「なんで忘れなきゃなんないのよ!!私だって忍なのよー!?ばれないようにして見せるわよー!」
「ああ。いのにゃ無理。向いてねぇよ。チョウジならまだしもな」

「でも、僕のも消すんでしょう?」
「もち。下忍は貴重な情報を持たないほうがいいんだよ。拷問にもっとも弱いしな。子供に大金持たせるようなもんだ」
「そっかー。じゃあ仕方ないよね」
「お前順応性高いなー。俺が怖くねぇのか?自慢じゃねぇけど、人なんて殺した数も覚えてねぇぞ」
「うん。そうかも。でもシカマルが全部嘘だとは思えないから。白金も面倒くさがりでしょう?」
「…まぁなー」
「ってそこー!!何でそんなに和んでんのよ!!騙されてたのよー!!もっと怒んなさいよチョウジー!!!」
「いのだって、別に怒ってないくせに」
「なっっ!!そんなことないわよー!!かなり怒ってるんだからねー!!」
「いの。お前もうちょっと素直になれよな」

 それだけを言うと、シカマルはいのに向かって印を組んだ。

「言い残すことは?」
「…すんごいムカつくけど、あんたが白金だろうとなんだろうと、私はあんたのことを仲間だと思ってるわー」
「OK。オレもそう思ってるぜ」

 術が完成する。
 シカマルの腕が、いのの頭に触れると、その体がくたりと崩れ落ちる。
 それをチョウジが支えた。
 優しく優しく、宝物をもつように抱きかかえる。

「役得だぜ?チョウジ」
「うん。どーして僕を後に残したの?」
「お前。そろそろいのに告れ。うまくいくことはオレが保障してやる。表のオレじゃあこんなこと言えねぇからな」
「うん。…でもその記憶も消しちゃうんでしょう?」
「なんとなく覚えてる程度にはしといてやる。夢の中で見たとか、その程度だな」
「分かった。あのね。シカマル。僕はシカマルの本当の過去を知らないけど、僕はシカマルを本当の友達だと思ってるから」
「………おう。ありがとな。オレもそう思ってる」

 2人笑って、シカマルは呪印を組んだ。
 そして、腕を近づけ、それが届く直前に。

「シカマルもヒナタとうまくいくといいね」

 にっこりと笑ってチョウジが言った。
 そして抱きかかえたいのごと崩れ落ちるが、その体は、シカマルが一度抱え、そのまま地へおろす。
 優しく…そっと。

 彼らとの生活は、確かに虚偽に塗れてはいたが、ひどく暖かいものだった。
 異端である奈良シカマルと言う存在が、同じ異端であるヒナタとナルト以外で、気を張ることなく、羽を休めることができる人間たちだ。
 ヒナタやナルトを除けば、一番大事な存在。

 チョウジを横たえながら、シカマルは笑う。
 2人とも拒絶しなかった。

 騙して騙して騙してきて、どれだけ怒られても、どれだけ嫌われても拒まれても、何も言えないと思っていた。
 けれど彼らは、受け入れてくれた。
 信じられないくらいあっさりと。
 それが、思いもよらず嬉しい。 

「ありがとよ…チョウジ、いの」

 2人の顔を見て、そう呟いた。








「記憶なくなっちまうのかー」
「うん。ごめんね。2人とも…」
「ヒナタが謝ることはない。なぜなら、オレ達が強ければ必要はなかったからだ」
「そうだよなー。オレ達がもっと強くって、一人前だったらヒナタにこんなことさせずにすんだのにさー」

 2人の言葉に、ヒナタは首を傾げる。

「私が…怖くないの?」

 おずおずと、まるで演技しているときのように頼りなく、少女は2人に問いかける。

「ん。あーっっ。怖いっちゃー怖かったけどよー…、やっぱヒナタはヒナタだし?なっ。赤丸!」
「ワン!!」

 そうして、赤丸はヒナタに飛びつく。
 演技でないヒナタは、それに倒れることもなく、柔らかに赤丸を抱きかかえた。

「…いつか。追いつく」
「シノ…君?」
「いつか銀獣に追いつく…その時は…記憶を戻してくれないか…」
「おっ!それいいなっ!!ヒナタ!オレ達、すぐ追いつくぜ!!」
「………うん。そうだね」

 なんて温かな言葉だろうか。
 嬉しくて嬉しくて嬉しくて…、ヒナタは赤丸を抱く手に力を込めた。

「ありがとう。キバ君、シノ君。それから…またね」

 赤丸をキバの元に戻して、ヒナタは印を組んだ。
 浮かべた笑顔はやはりとても綺麗で、キバもシノも笑みを浮かべた。

 キバはいつものように満面の笑みを。
 シノは珍しくしっかりとした笑みを。

 暖かいそれらは、ヒナタにとってとても大事なもの。
 2人の少年は静かに崩れ落ちる。
 地面に直撃する前にヒナタが受け止めた。

「本当にありがとう」

 こんなにも血に塗れた私を受け入れてくれてありがとう。

「待ってるよ」

 銀獣と同じくらいの力を手に入れるのは、正直無理だと思うけれど。
 きっと彼らは強くなるから。









 だから。








           ―――またね。
2005年2月15日
バレネタって感じのバレネタを書いたことがなかったので書きたくなって書いたものです。
仲良しナルヒナシカ。さりげなくサスサクとチョウいのがあったり…。