『幾度も見た夢の中』
炎が舞う。
紅の舞い。
赤く赤く全てを染めつくし、蘇りし金色の獣。
全てを覆い尽くす咆哮。
一つ目の結界が容易く壊れ、二つ目もまた振動する。
五段階に結界を張ってあるが、果たして持つかどうか。
まさかこれまでとは、と思わざるを得ない。
大地が振動する。
結界の中に居る者達はただ見据える。
獣を。
尾 獣 と い う 九 尾 の 化 け 物
崩壊
振動
約束
恐怖
凍りついた顔
蒼い瞳が
金色に輝く髪が
血に
染まった。
「―――ぃやぁああああああああああああああっっ!!!!!!!」
耳をつんざく悲鳴に、火津は一気に覚醒した。
ほとんど無意識に近い領域で術を使い、悲鳴の居場所に飛ぶ。空間を繋げる呪印を、自分の部屋と相手の部屋に施してある。それによって結界に阻まれるはずの大声が火津の耳には届いた。
「ヒナタっ!!!!!」
「ああああああああっっ!!!」
涙を流し、叫び続ける少女を抱きとめ印を組む。気休め程度のものだが、精神を落ち着かせることが出来る術だ。
少女の頭を押しつけるようにして強く抱きしめる。今の今まで他者の存在に気付かなかったのか、ヒナタの身体がびくりと震え、顔を上げた。
「ひっ!!ひ、づ…」
「大丈夫」
大丈夫。大丈夫。
呪文のようにそう言い続ければ、次第に嗚咽が遠のき、肩の震えが小さくなっていく。
…初めての、ことではなかった。何回こうして飛び起きたのか憶えていない。ヒナタが火影邸で居を構える以前から、彼女が月に何度も夢にうなされることを知っていた。慣れた動作で火津はヒナタの髪を優しく梳く。
「………温かい」
「…うん」
「………生きてる」
「………うん」
「…生きてるっっ」
ぎゅう、と火津を抱きしめ、その胸でヒナタは嗚咽する。
ぽたり、と、火津の頬から涙が落ちた。それを隠すように、火津はヒナタの頭に添えられた自分の手に顔を伏せた。
例え、この空間が幾多もの結界に閉じられた場所であっても…。
幾度も見た夢の中、幾度でも涙を流す。