『幾度も見た夢の中』







 あの時。
 大事な存在を失ったあの時。

 血に濡れたヒナタを見たとき、ああ、これは夢の中だと気付いた。
 それも、幾度も見た永遠に続く地獄のような夢。
 どれだけ違う選択しても、どれだけわめいても、結果は変わらない。
 結局あいつは死んで、ヒナタは泣いて…あの人も泣いて。
 俺が、死ねばよかったのに。

 こうすればあいつは死ななかったのではないか?
 何度そう思って、何度その選択をして、何度絶望に突き落とされたのだろう。
 もう、全てが手遅れ。

 あいつは死んで、俺は生きている。
 過去は、変わらない。
 それでも俺は、夢の中で何度でも叫ぶ。

「やめろぉぉぉぉおおおおおおお!!!!!!!!!!」



凍りついた顔 

蒼い瞳が 

金色に輝く髪が 

血に 

染まった。 







「―――っっぁあ!!!!!!!」



 目が覚めた。
 荒く息をついて、拳を握り締める。
 限界まで見開いた目を強引に閉じて、頭を布団の上に押し付けた。

「ぁぁあああああ…」

 零れ落ちる声を、涙を全て隠すように。
 ふと、何者かが背をさする。その手の主は、簡単に想像がつく。結界に区切られたこの空間で、部屋の声が漏れる場所なんて一つしかないから。
 背中にあるぬくもりが、少し心を和らげる。
 堪えようのない激情が過ぎ去るのを待って、顔を上げた。そこにあるのは予想通りの少女の顔だ。

「大丈夫だから」

 少女が何を言うよりも早く、それを封じた。

「火津…」
「………火影様。あまり夜遅くまで起きていると明日に触ります。部屋まで送りますので、もう寝ましょう」

 起こしてしまったのは自分であることを知っているが、笑って少女に手を差し伸べる。幼くして火影の名を抱く少女の手を握り、一緒に立ち上がる。手を離した瞬間、僅かにぐらついてしまったが、何とか堪える。手を貸そうとした少女の手は首を振って断った。
 送る、と言っても大して距離があるわけではない。廊下を歩いて、ほんの数歩の距離だ。自分達はそれすらも厭って、術で空間を繋げている。だから、自分の声は火影の部屋に届く。本来なら各々の部屋が封印で閉じられた火影邸にとってありえないことだ。

「………」
「お休みなさい」

 何か言おうとした火影を制して、火津はほとんど強引に少女を部屋に入れた。無情にも扉を閉じて、ただ、扉に向かって小さく呟く。

「ごめん。…ありがとう」

 火影…ヒナタが自分を心配しているのは分かっている。
 それでも、それに気を使うだけのゆとりは…ない。
 火津は踵を返した。向かった先は自分の部屋ではない。
 暗闇の中、ふわりと白い髪が舞った。



 幾度も見た夢の中、俺は何度でも絶望する。
2006年2月24日
火津バージョンです。















 どれだけ追い詰められてもその手をとることは出来ない。
 それが自分に科した罰なのだから。