私は貴方の忍で―――。

 貴方だけの忍でした―――。







 『失ったもの』







(―――火影様?)

 葉月は身震いして、周辺を見渡す。
 辺りは一面の森。
 音忍の始末にせいをだす葉月の姿は、葉月のものでなく、ヒナタの姿のものだった。
 ヒナタの姿に暗部服。そして面。

 血に染まった面の下で、ヒナタはその細く整った柳眉を寄せる。
 確かに聞こえた。
 ヒナタは、とりあえず近くに来ていた音忍を片付けると、素早く印をきり、1つの術を完成させる。
 それは、火影とヒナタにしか使えないもの。
 禁術を組み合わせて作った、高度で…ヒナタの力がなければ、意味を成さないもの。
 術を発動したとたん、火影の声がヒナタの頭の中で響き渡った

(―――なた。ヒナタ…聞こえとるか…?)

 それはチャクラを通じて、頭の中に直接流れ込む。
 相手と自分を声を出さずに会話する術なのだ。

(火影様?どうしました?)
(ヒナタ…わしは…もう長くない…)
(はぁ?何を言っているんですか?貴方はちょっとやそっとではくたばりませんよ!)

 頭の中での会話にもかかわらず、ヒナタは火影を怒鳴りつけた。
 それに、火影は愉快そうに笑って

(大蛇丸は連れてゆこう。だからお前はこの里を守れ)

 そう言った。
 悪寒が通り抜けた。

 ―――今なんと言った?

 大蛇丸…だと?
 なぜ?
 大蛇丸と戦うつもりはない。
 そう言ったのは貴方じゃないか―――。
 大蛇丸は私と戦うのではなかったのか―――?
 そう言ったのは貴方だろう?

(な…にを…)
(悪いのヒナタ…わしの決着はわしがつける。お主を騙すことになってしまって悪かったの…)

 ヒナタの動揺を感じ取ったのか、火影が静かに、諭すように語り掛ける。
 ヒナタは白眼を発動する。

 焦る。
 どこだ?どこで戦っている?
 今まさに火影がいる場所はどこだ―――?

(ヒナタ…木の葉丸とナルトに伝えて欲しい。…お主らはわしの自慢の孫じゃ。強く育て―――と)
(何をバカなことを!!誰が貴方に死んでいいといった!?そんなのは許さない!!!)

 いた。
 結界が覆う場所。
 火影と大蛇丸のいる場所。
 ヒナタは弾かれたように走り出した。
 少しでも…一秒でも早く。

 あそこに行かなければならない。

 焦る。

 苛立つ。

 早く―――早く早く早く早く…



 …だから死なないで…



(…ヒナタ。お主は言ったな…自分は幸せになる資格などない。…ナルトを汚していい人間ではない―――と)
(だから何!?)

 まだ着かない。
 どうしようもない無力感がヒナタを襲う。

 早く―――

 早く行かなければ―――

(お主は…汚れて…などいない。……純粋で、真っ直ぐで……)

 段々と小さくなっていく声に、冷たい汗が流れる。
 ただがむしゃらに走った。

(ヒナタ…お主は……わしの自慢の孫じゃ……幸せに…なりな…さい…)

 結界の中。
 ようやくたどり着いたその場所。
 ヒナタがつくと同時にちょうど結界が崩れる。
 視線の端を大蛇丸とその手下が抜けていく。
 今なら余裕で倒せるだろう―――。

 だが…
 ヒナタは動けなかった。
 ………そこに火影はいた。


「………っ…ぅ」


    彼は…


「あ…あああ……」


    火影は…


「あああああ……」


    火影と呼ばれていた存在は…


「ああああああああああああああああああああああっっっっっ!!!!!!!!」









     ―――もういない―――