「んでーオレは女になったわけよ。おっけ?」
「へーお前ただの女装趣味の変態じゃなかったんだな」
サスケが自分の家の居間に上がりこんだ瞬間に聞こえてきた会話がそれだった。
最早自分の家のごとく勝手気ままにくつろぐ男たち。
バカでドベで落ちこぼれで更には九尾持ちのうずまきナルト。
砂の里長の娘という肩書きの癖して男のテマリ。
「ちょっとあんたらさー、人んちに勝手に上がりこんでなーにくつろいでんのよ。それと、何? 何の話よ。面白い話なら許さないわよ。私をのけ者にするなんてさー」
「あー、聞けってサスケ。おもしれーってば」
「そーいやサスケにまだ言ってなかったっけ? うちの姉貴さー、アンタんとこの兄貴と駆け落ちしててー、まぁつまりは、サスケが俺の妹になるってことよ」
「はぁっっ!?!?!?! ちょ、なに言って」
「だっからさー、お兄様とお呼び?」
にんまりと笑ったテマリに、わけが分からないけど何となくムカつくと結論したサスケのクナイが飛ぶ。
飛んできたクナイを軽く受け止めて、テマリは無駄に素早い動きで右腕をサスケへと差し出す。いつの間にか握られた、白い箱。
「お土産」
「!」
次のクナイを投げる構えの状態で、サスケはピタリ止まった。
にんまりと笑うテマリ。
こらえきれないと、ナルトは爆笑する。
「…勿論、食べ物でしょうね」
「勿論。お姫様の大好きなスイーツってヤツよ」
「つーか、サスケ、お前マジで餌付けされすぎ! ありえねー! なんでお前がもてんのかマジ意味わかんねーってば!」
「うっるさいなー、今時元気なだけの落ち零れなんてはやんねーの。あんたももうちょっと気をつけろよなー、女の恨みは怖いぞー」
テマリの手から箱を受け取って、いそいそと開けながらサスケは答える。
頭の9割は箱の中だ。
サスケの最後の言葉に、一瞬ナルトは詰まって、テマリに笑われる。女子の恨みは怖い、そんなのナルトだってよーーーーく分かってる。
アホのナルトとしての演技の一貫でついうっかりサスケとキスなんぞかましてしまった後は、本気で命の危険を覚えた。
「…理不尽だってば、なんで女のお前が男よりもてんだか」
「バーカ。ナルト、女だからもてんだよ」
「はぁ? なんで」
「女にしかわかんねーだろ、女がどーいう男を好きになるか、なんてよ」
なるほど、とナルトは頷く。
女の心理なんて男であるテマリやナルトに分かるはずもない。
すっかりご機嫌で箱の中からフルーツタルトを取り出したサスケを見て、2人頷く。
女の格好をして…というかこっちが素なのだが、普段の姿を見ているとついつい忘れがちになるサスケの性別だが、こうして甘いものを機嫌よく頬張っている姿は女にしか見えない。
―――いや、女なんだけどさ、女って忘れるよな
―――あーまぁな。胸とかもろ女なんだけどよ
―――胸あっても色気ねー女も珍しーよな
―――四六時中男の格好してる女に色気は無理だろ
―――っつーかどう見ても色気より食い気だろ
さりげなくひどい事をサスケに聞こえないようこそこそ話す。
丁度そこで、サスケが我に返ったので、2人の男共は慌てて居住まいを直した。
さすがに、聞かれるとまずい。
「んで、なんの話だったっけ?」
「遅っ! つか食べんのはえーってば」
「うるっさいって。だからさ、そーいうの女の子に言ったら嫌われるに決まってるじゃん。デリカシー皆無」
「はぁ? 何が? 何で?」
「ああ、ナルトにゃ空気読むとか、雰囲気出すとか、そんなん無理無理」
「うっわサイアク。でもそのとーりかも」
サスケが絡むとどんどん話題はずれていくので、やっぱり女だよなとかテマリは思う。
…弖鞠と話してるときも結構あちらこちらに話が飛んだので。
そんな事を思い出して、考える。
もし弖鞠が里にいたら。
里にいて、風影の長子の"テマリ"として生きていたなら。
「あー…結構ラッキーだったのかもな」
弖鞠はイタチ連れられて里を抜けた。
だから晃鞠は"テマリ"になって。
この、意味の分からない奴らに会えたから。
そう、笑う。
ほんの少し、照れくさそうに。
弖鞠が見せた、自分達以外の人に対する感情。
うらやんだそれを、今の晃鞠は持っている。
今なら、ここに集うメンバーと、心の底から笑えるから。
突然呟いて、見慣れない微笑を見せたテマリに、言い争っていた2人はきょとんと顔を合わせた。
それに気付いてテマリは笑う。にんまりと。
「あー弖鞠に会いてー」
意味分からんという顔をしたサスケ。
目配せして、ナルトに口止めする。
ナルトがにやりと笑って、了解と頷く。
さて、もうさっきのテマリの発言など忘れているであろうサスケは、本当を知ったら一体どんな顔をするのだろうか。
今から全く楽しみだった。
だから、会いに来いよ。
この可笑しな仲間たちに。
弟と妹に。
散々料理作って待っといてやるから。
会いに来いよ、弖鞠―――。
※こっから先バリバリイタテマになってます。
ふと、女は足を止めた。
疾走していた状態からの急な停止に、黒いフードが後ろへずれ落ちる。パサリと零れた砂色の長い髪。女は振り返り、濃紺の瞳を巡らせる。
「…どうした」
女の急停止に先を行っていた男が戻ってくる。
真っ黒い衣装に、真っ黒な髪、真っ黒な瞳。
全身黒尽くめの男が背後に立った気配。女は後ろに体重を傾けて、男の胸で頭を支える。
その頭に手をのせて、男は女の視線を追った。
別に怪しい気配とか、そういうのは全く感じない。
「なんか、晃鞠に呼ばれた気がした」
そう笑って、女は男を見上げる。
うちはイタチという、木の葉の抜け忍を。
「…そうか」
「ごめん、行こう。仕事に遅れる」
「…会いに、行こうか」
イタチの言葉に、女はきょとんとして目を数回瞬いた。
ぶっきらぼうな言葉と、鉄壁の無愛想。その黒い瞳が、いつもより優しい。
胸の奥から湧き上がる温かさ。
温かくて、とても、幸せな、その感じ。
弖鞠がこの男と会って手に入れたものだ。
嬉しくて溜まらない癖して、それを悟られないよう視線をそらす。頬が赤く染まっているのは、隠せないけど。
「仕事が終わったら、な」
「…ああ。行こう。一緒に弟と、それから、妹に会いに」
弖鞠の細い身体に腕を回して、イタチはそう笑った。
ここまで読んで下さった方、ありがとうございましたvv
マイナー過ぎるのは自覚済みなので、一応注意書きを書いておこうと思いまして。
でも大好きです。
ちなみに深く重い感じのいやーな過去持ちなのはヒナタくらいです。はい。
サスケが男になってる理由はテマリより軽い感じです。
イタチと弖鞠は何でも屋みたいのをしてる感じで。