神の森の占い師 前編 神森と呼ばれる森の奥深く、よくあたると言われる占い師が住んでいました。 これは、その占い師のお話。 占い師のところには、毎日とはいいませんがよくお客さんがやってきます。 その半分は、彼女の占いを求めてやってくるもの。 もう半分は、彼女が住んでいる森の神様や、その神様と森を守る神守と呼ばれる者達です。 真剣に彼女の占いを求めている者のみが、神守達に許されて森を抜け、彼女のもとにやってこれるのです。 「今日もいい天気〜」 毎朝、占い師は住処にしている小さな小屋から外に出て、風を感じ、朝日に目を細めます。 うーん、と伸びをした彼女は、いつものようにすん、と空気の匂いを嗅ぐように鼻を鳴らして眉をひそめました。 「今日はあんまり良くないお客さんがくるわね。」 そうつぶやくと、彼女は水を汲むために桶を持って泉に向かいました。 ここは神森の入口。 たくさんのお城の兵士達が、森の茂みをかき分け入っていこうとしています。 けれど、必ずUターンしてもとの入口に戻って来てしまいます。 森に入っていった兵士達は、たどり着いた開けた場所が、もとの場所であることに気付いて戸惑っているようです。 彼らの上司に睨まれて、あわてて森に逆戻りする兵士もいます。 神森達がかけた、迷いの魔法がはたらいているのです。 何度目かの挑戦が失敗に終わった時、一番偉い騎士が森に向かって怒鳴りました。 「我らはこの国の王の命により参ったもの!この森の占い師に用がある!森を通してもらおう!」 すると、どこからともなく声が聞こえてきました。 「この森の占い師に何の用がある。」 「占い師にある用とは占いに決まっておろう!」 森の主の使いである神守に対しても偉そうな態度を崩さない騎士を、周りで見守っている兵士達が不安そうに見上げています。 再び神森からの声が尋ねました。 「何を占わせるつもりだ。」 「戦争のことだ!占い師に敵の出方を占わせるのだ!」 「そんなことを占わせるのならば、お前をこの森に通すわけにはいかぬ。」 「通さぬとなれば、この森を焼き尽くすまでよ!」 なんと無礼な騎士でしょう。 神守はこの騎士を殺してしまいたいと思いましたが、占い師からどんな人でも通すように、と言われていたのを思い出して、通すことにしました。 神守が渋々、承諾の意を伝えますと、騎士は神守が脅しに怯えたとでも思ったのでしょうか。 ますます偉そうにしながら、悠々と森に入っていきました。 騎士達を見送った神守は、騎士達の先回りをして占い師のもとへと向かいました。 「まぁ、お城の騎士さんがやって来ているの?」 神守が占い師のところについた時、占い師は手首の上まで泥だらけにして何かをしていたようでした。 「じゃあ、お出迎えをしなくてはね。」 手を洗いながら占い師が言うと、神守は首を振って答えました。 「あんな奴等にそんなことをしなくてもいい。けれど、十分に気をつけるんだぞ。」 「だいじょうぶよ。もうすっかり準備は出来ているもの。」 占い師がにっこりすると、神守は心配そうにしながらも、森を守る仕事をするためにもどっていきました。 騎士達はお昼過ぎにやってきました。 散々に迷わされたのでしょう。 兵士達は疲れた顔をしながら、騎士が乗る馬をひいています。 その上で騎士が一人、ふんぞり返っていました。 下草を踏み潰しながらやって来た彼らを、占い師は小屋の前で出迎えました。 「遠路はるばるようこそいらっしゃいました。今、お茶を淹れますね。」 …ここまで馬に乗ったまま来るのは大変だったでしょうに。愚かな人。 小屋に入ろうとした占い師の腕を、兵士がつかんで止めました。 馬に乗ったままの騎士が彼女を見下ろして言いました。 「その必要は無い。我らはこの国の騎士だ」 「存じておりますわ」 私を何だと思っているのかしら。名乗らなくてもあなた達の素性は知っているのに。 腕の痛みに眉をひそめながら、それでも朗らかに彼女は答えました。 「町で評判の、占い師とお見受けする。王の命令だ。城まで来てもらおうか」 「行って何をいたしますの?」 まるで罪人を連れて行くみたいな言い方じゃない。 「我が国が今度の戦争に勝利できるよう占いをするのだ」 なぁにが「我が国」よ。自分が王様のつもりなのかしら。 騎士がそういうと、兵士が占い師を連れて行こうと腕をひっぱります。 占い師は抗いながら言いました。 「お待ちください。私は戦争のためなどに占いはいたしませぬ。 それに、私はこの森を出ては長く生きられない身。どうぞおやめください」 すると騎士はいまいましげに舌打ちして怒鳴りました。 「つべこべ言うな!王の命令が聞けぬというのか!? おまえの命など占いをするまで持てばいいのだ。それともここで殺されたいか!! ………おい!そこの兵士、この女に縄をかけろ。逃げられないようにな!!」 こうして、占い師はむりやり城へと連れて行かれてしまいました。 |