「まさかバイト頼まれるとは思っても見なかったなぁ…」

 神社の境内を竹箒で掃きながら、美緒は呟いた。





 二番目の、はじまり





 美緒の両親は毎年、お正月に必ず里帰りをする。

 それは美緒のおじいちゃんおばあちゃんが孫に会えるのを楽しみにしているということもあったし、世間の風習に合わせているみたいなところもあった。
 お母さんが一人でお節料理を作るのが大変だったからかもしれない。お父さんが長男だから、という理由もあったかもしれない。

 理由はともかく、美緒の家族は毎年おじいちゃんおばあちゃんの家で新年を迎えていたのだ。
 初詣も必ず、おじいちゃんおばあちゃんの家の集落の神社だった。
 よく見知った神社という気安さもあったからかもしれない、神社の宮司さんにお正月のバイト巫女を頼まれて即決してしまったのは。





 宮司さんは美緒に巫女を頼んだ理由を、集落の人をあんまり良く知らない人のほうがおみくじとか売るのが気安いとかいろいろ理由を言っていたっけ。
 集落の外に住んでいて、お正月はこっちに来れて、年頃も適当だったから宮司は美緒に頼みに来たのだろう。

 …なんだか必死、だったような気もしたけれど。

 小さな集落の小さな神社は、バイト巫女が必要なほど忙しそうには見えない。
 鐘付きがしたい人も勝手に順番を守って並んでくれるし、おみくじとかお守りとかは置いてある箱にお金を入れて持っていく。
 破魔矢とか熊手みたいな高いものは美緒が応対していたが、そんなもの1家族に1つあれば充分だ。

 確かに忙しいは忙しいが、よく聞く目の回るような忙しさ、が感じられない状況にいささか拍子抜けしながらも、お昼の休憩を貰った美緒は休憩所へ足を進めた。





「きみ、巫女さん?あんまり見ない顔だね」

「あ、バイトなんです……?」

 話しかけられて振り返った美緒はその人の目が赤く見えてびっくりした。
 しかし、まばたきしてよく見ると、話しかけてきたその少年は普通の茶色い目。

 光の加減だったのかしら。
 不思議に思いながらも、話しかけてきたその人を観察する。
 歳の頃は17歳くらいだろうか?全体的に色素が薄い印象で、髪も目も薄い茶色、肌なんか真っ白だ。

 小夜と目が合うと、にっこりと微笑まれた。なんだか、人懐っこい感じがする人だ。
 集落の全員の顔を知っている訳ではないけれど、こんな人は見たことがないような気がする。

「バイトなんだ?じゃぁここら辺に住んでる人じゃないの?」

「そうなんです」

 バイトの接客の延長で思わず丁寧に返事をすると、その少年は苦笑した。

「普通の言葉でいいよ、そんなに歳も変わらないしね。実は僕も、ここら辺には住んでない人なんだ」

「あ、そうなん…だ」

 いきなり丁寧語をやめようとするとどうしても詰まってしまう。
 不自然にとぎれた私の言葉を聞いて、またその人は笑った。
 今度は困ったようなやつじゃなくて、普通の、柔らかい笑顔。

 よく笑う人なんだな、と思った。

「あの、これから私お昼なんだけど、一緒に食べない?」

 もっと笑わせてみたい、いろんな表情を見てみたい。
 いつか爆笑するまでくすぐり倒してやろう。

 そう思った私は初対面のこの人にすでに惹かれていたのかもしれない。 








2007年10月7日

なんか微妙に続くような気もしつつ。
続くんだろうか、これ…。
出てきた少年はいうまでもなくあの人です(笑)