二番目の、はじまり 2
お昼ご飯を持ってくるという少年とわかれて、休憩用の離れに行くと、宮司さんの奥さんが昼食を用意してくれていた。
董子さんといって、雰囲気の柔らかな素敵な人だ。
「おつかれさま。お昼食べるでしょ?」
「はい。あ、お弁当持ってきてます」
言って私は部屋の隅に置かせてもらっていた荷物に駆け寄った。
お母さんが作ってくれたおせちの残りを適当に詰め込んできたのだ。
はっきりいって朝と同じメニューだけれど、自分で作るのも面倒くさかったし、お腹なんてふくれればいいのだ、この場合。
「え……」
小さな呟きに振り返れば、ちょっと困った顔をした董子さん。
「つくったのに…」
その手には、ほかほかと美味しそうな湯気を立てているお皿があった。
「あ!食べます食べます!」
この人が悲しそうな顔をすると、なにがなんでもその希望を叶えたくなっちゃう気分になるから不思議だ。
案外宮司さんも、この人の保護欲をそそられるようなところに惹かれたのかもしれない。
「でも、お母様が作ってくれたお弁当があるんでしょう?残したりしたらもったいないわ」
董子さんの料理とお弁当、全部食べさせる気なのだろうか、この人は。
「でも、2つともはさすがに食べきれないし…」
「じゃぁ、僕が食べるよ」
そう口をはさんだのは、さっき会った少年。お昼ご飯を持ってきたのだろうか?
その手には、生のお餅がいくつか。
「ちょうどコレだけじゃどうかと思っていたところだし。お相伴にあずかってもいいでしょうか、董子さん?」
「ど、どうぞ…」
ちょっと戸惑った様子の董子さんは、もう一つお皿を持ってくると言って台所へ帰っていった。
「あなたそれ、生のまま食べるつもりだったの?」
少年の手にある生のお餅を見ながらそう訊くと、彼は苦笑した。
「コレしか置いてなかったんだよね。焼くことができればそれでいいと思ったし、生なら生のままでもオツなもんかと」
「生食ですか」
硬すぎるんじゃなかろうか。
「生食ですよ。あごが鍛えられるかと思って。……そうそう、僕の名前はハクヤだよ」
今度あなたって呼んだら返事しないからね。
そう言って彼は楽しそうに笑った。
「ごちそうさま」
「ごちそうさまでした」
「はい、おそまつさまでした」
董子さんのお料理と私のお弁当、少年の持ってきたお餅というボリュームたっぷりの昼食を全部食べ終わって手を合わせると、董子さんは嬉しそうに微笑んだ。
お腹いっぱいで動くのがちょっと苦しいくらいだけど、バイトの続き、頑張らないと。
「じゃぁ私、戻りますね」
ちなみに、私が店番していない間おみくじ売り場は無人で、熊手とか羽子板売り場は閉めてある。
田舎だからなのか、ここらへんの警戒心はかなりうすい。
「僕も戻ろうかな」
用事があるし、と立ち上がったハクヤと一緒に外に出た私は、突然彼に手を握られてびっくりした。
「じゃ、ここで。楽しかったよ」
ああ、握手ね。
理解した私は笑顔でその握手を受け入れた。
「じゃあ、またね」
私はここに住んでるわけじゃないからまた会えるとは限らないけれど。
少しさびしく思いながら、握った手を2、3回上下に振って手を離した後。
歩き出した彼の背中に手を振って私は仕事場所へと足を向けた。
「うん、また明日ね」
……また明日?
かけられたその声に振り向いたときには、ハクヤの姿はその場から消えていた。
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