私、生まれました!





 はじめまして。ベッドに横たわったままで失礼します。
 私はアーティア。生後3ヶ月の赤ちゃんです。

 え?なんで赤ちゃんなのにすらすら喋ってるのかって?何をかくそう、私は前世の記憶を持った生まれ変わりなのです。
 前世の名前は小林みつ。黒髪黒目の生粋の日本人。今は何だか、金髪っぽいです。目の色は鏡が見れないのでわからないんですけど。

 生まれ変わった国は、どうやら異世界なのではないかと踏んでるんですがどうでしょう?あ、わかりませんか。
 ヨーロッパらへんの国っぽい雰囲気なんですけど機械が見当たらなくて、代わりに魔法なるものが横行してる。完璧、異世界。
 私はその異世界の、ちょっと裕福そうな家庭の次女として生まれきたっぽいです。上にはお兄ちゃんとお姉ちゃんが一人ずつ。一人っ子だった小林みつには新鮮な感じです。


 話が変わりますが、お腹がすいたんです。
 今は深夜12時くらいかな?私には乳母っていうかお世話係?みたいなおばちゃんがついててくれるのですがさすがにもう寝てますよねぇ…。
 赤ちゃんだとやることなくて、一日中寝てるから夜に目が覚めるんですよ。しかも空腹で。
 あぁ、ミルクだけじゃなくて固形物が食べたい。



 ……おや、廊下に明かりが?
 父上と母上のご就寝でしょうか。
 父上、今日は帰ってくるのずいぶん遅かったんですね。ご苦労様です。
 ちょうどいい、今から寝る2人には悪いですがちょっとアッピールしてご飯をもらいましょうか。

ほぎゃあ、ほぎゃあ。

「あら、アーティアが泣いているわ」
 優しげな女性の声。母上です。
「大丈夫だよ。すぐにナーサが気づいてくれるさ。それよりも…さぁ」
 落ち着いた低い声。父上です。ちなみにナーサっていうのが私の世話をしてくれるおばちゃんです。
 そしてバタンとドアが閉まる音。

 あらら、今からピンクな世界に入ろうとしていたのですね?我慢できないって感じですよ父上。
 でもごめんなさい、私の空腹も我慢できないんです。同じ我慢できないんだったら父上が我慢してください。大人なんですから。

ほぎゃあ、ほぎゃあ。
ほぎゃあ、ほぎゃあ。

 さっきよりちょっと大きい声でアッピールですよ母上。乳母さんでもいいから、私にご飯をくださいな!
 バタン、と再びドアが閉まる音がして、私が寝てる部屋のドアが開きました。

 おおっと!慌てて駆け付けてきた母上、ネグリジェが乱れまくってます!……父上、仕事が早いな。
 会話が始まってから3分経ってないよ?

「ああ、アーティア…。どうしましょう、お腹がすいたわよね…」
 母上、ミルクでいいですからね。間違っても母乳なんて与えようとしないでくださいね。
 同性とはいえ、女の人の胸に顔をくっつけるのは…て、ちょっと母上!
 母上は早く私にミルクを飲ませなきゃと思うあまり、自分の胸に私をくっつけたのです!きゃああ…恥ずかしい。

 ……でも思わず本能に羞恥心を忘れてしまいますよ。無心になっていただきました。ごちそうさまです母上。

 ……そして父上。射殺しそうな目で私を睨むのやめてください。いちおう、血を分けたあなたの娘なんですから。

「さ、もういいだろう。あとはナーサに任せて」

私が飲み終わると、すぐに父上が母上の肩を抱いて立たせようとします。せわしないな父上。

「あなた…でも」
「赤ん坊も大事だけど、僕も構ってくれないと拗ねるよ?…さぁ」

 後ろ髪を引かれる様子で、こちらを振り返りながら強引な父上にひっぱられていく母上を、私はナーサにげっぷをさせてもらいながら見送るのでした。



 …親同士がラブラブだと、子供も良い子に育つっていうけどさぁ。
私はひねくれてしまいますよ?父上。
…私の弟か妹が生まれるのは、そう遠い未来ではなさそうです。