私、立ちました!
皆さん、お久しぶりですこんにちは。
私はアーティア。生後9ヶ月の赤ちゃんです。
それより聞いてください皆さん!私、前回よりもちょっと成長したんです。
そりゃ、半年も経ってるんだから当たり前だろうって?…まぁ、それはそうなんですけどね。
ハイハイはすでにマスターしたんですけど、つかまり立ちができるようになったんです!
いや〜、やっぱり立てるようになると視界が全然違いますね!今まで同じ目線だったネズミやらにゃんこやらを見下ろすことができるんです。自然、ごきげんになって顔がにやついてきます。ふふふ。
あ、何のことだか訳が分からないあなたの為に説明しますと…何をかくそう、私は前世の記憶を持った生まれ変わりなのです。
前世の名前は小林みつ。黒髪黒目の生粋の日本人。今の髪の色は金髪です。目の色は…立ち上がることができるようになってから真っ先に鏡を覗き込みましたよ!なんと青でした。空の色のような青ではなくて、深い海のような藍色。おおお、これが噂に聞く金髪碧眼というやつなのですね!
興味津々で自分の顔を観察していると、突然わきの下あたりを掴まれて持ち上げられました。
首をひねって見ると、私を抱き上げているのは母上です。
「ふふふ、アーティは鏡が好きなのね?」
いやいやいやいや!断じてナルなんかではございませんよ!?
ちょっと間近で見る顔が珍しくて見入ってしまっただけなんですからね?自分が世界で一番スキなんていうイタい人にはなりたくないです、私。
いやでも、自分が嫌いっていうのも問題アリですよね。結局人間、ある程度は自分を好きでないとうまいこと生きていけないような気がします。
アーティアとして生まれる前の小林みつは、自分のことちょっとは好きだったでしょうか?……うーん、うまく思い出せません。ていうか、小林みつがどんな人間だったかとか、どうしていきなり転生してるのかとか思い出せないんですよね。思い出せるのは、小林みつって名前と現代社会に生きていた女性っていうことと、家族友人の思い出だけ。うーん……もしかして知らないうちに死んだんですかね?私。
考え事をしてぼーっとしている(ように見える)私の頬を、誰かがつんつんと突きました。
見上げると、にこにこしてる父上が視界にはいります。
ちょ、本人の許可なく勝手に触るのは禁止です父上。私は忘れていませんよ。半年前の夜、私がご飯をアッピールしていたのを無視して自分の欲望を優先しようとした所業を!!
……幸いにして、未だ妹か弟かはできていないようですが、時間の問題だという考えは半年前から変わっていません。どんだけ大家族が欲しいんですか父上。母上の苦労を思いやれ父上。子供を生む大変さをちょっとは理解しろ父上。…や、私だって子供を生んだ記憶はないけど大変さは想像できますよ、うん。
「ふふふ、お母様に似て美人になるよアーティアは」
そう言って微笑む美形の父上。あなたに似ても美人になれるでしょうね。
そして、自分の赤ん坊相手にやたら色気のある微笑みを向けないで下さい。「ね?」なんて同意を求められた母上が赤面しているではないですか。しかし…すでに3人の子持ちなのにウブいな母上。まぁ、そこが父上が母上に惚れ込む理由なのかもしれんのですが。
「……もう1人くらい、アーティに美人な兄弟が欲しくないかい?アーリア」
「あなたったら…もう」
いやいやいや、母上!?もう…ぽっ、じゃないですからね!?
まだ真昼ですよ父上!?何考えてるんですか!?
私の必死なつっこみ(あぶあぶ…くらいしかしゃべれなかった)をモノともせず、見つめあい燃え上がった2人は寝室に消えていったのだった。
……うわーん、放置しないでようー。