『世界を滅ぼす救世主』







ああ、世界が崩れる音がする。


  ガラガラ

     ガラガラ


壊れていく。

       世界が。


             全て

                無に

                     返る。



「ねぇ?あたし間違った?」

 くせのある髪の毛を梳きながら、あたしは呟いてみる。
 答えは返らないことを知っている。

 ああ。世界が壊れる音がする。

 けれど。

 あなたのいない世界に興味はない。

「ごめんね。あたし、無理だ…。救世主なんて…なれない」

 巷では、女神よ救世主よ、と祀り上げられ、されど自分は世界を滅ぼす。
 なんて皮肉な事。

 救世主は世界を滅ぼす。

『世界を救え。それが出来るのはお前だけだ』

「頑張ったよ。たくさん」

『…俺は、お前の作る世界が見たい』

「うん。あたしも見たかったな」

『………悪いけど。先に行ってくれ』

「…意地っ張り」

『……倒したのか?』

「倒したよ」

 敵はもういない。
 世界の破滅を企む卑劣な悪魔はこの世を去った。
 けれど。

 世界は救われない。

 この世界を救う術を持つたった一人の人間が、それを放棄した。

 だから、世界は滅ぶ。
 救世主が、世界を滅ぼす。

「なんで、先にいっちゃうの?」

『ありがとう』

 そんな言葉、いらない。
 ただあなたが生きてさえ居てくれたら、あたしは生きていれるのに。
 いらない。いらない。
 あなたが居ない世界なんて、あたしはいらない。

 あなたが居ればきっとあたしは世界を取り戻す。

 あなたが居ればきっとあたしは救世主になる。

 でも、世界も、救世主も、もう関係ない。

「どうして、あたしが救世主だったのかな?」

 この世に自分だけが世界を救える。
 それは確かに救世主。
 崩壊する世界が、本能的に生み出したたった一人の存在。

 でも、それはたった一人の存在が世界の命運を握っているという事で。

 あたしはその重さに負けそうだった。
 そんなときに知り合ったあなたが、あたしを支えてくれた。
 背負わなくてもいい、と。
 その荷を分けてくれてもいいのだと教えてくれた。

 あたしの、大事な、大事な人。

 命よりも、世界よりも、大切な人。
 

 あなたが死んでしまったら、あたしは、もう生きていけない。


 だから。
 それなら、世界を救う必要なんて、ない。
 あたしの世界は、あなたが居る世界。

 あなたの居ない世界は、あたしの世界じゃない。


 崩れる。

    壊れる。


      ガラガラ


  ガラガラ



 世界は救われない。



 救世主は救世を放棄した。





 ああ、世界が崩れる音がする。








「あたしは世界を救わない」








 そうして世界は滅んだ。


 2006年01月26日
 世界を滅ぼす救世主のお話。
 …もうちょっと平和なもん書けよ自分…。
 『一人の大事な存在』と『世界』を秤にかけたとき、どっちを選択するかっていうと、『世界』をとるか、『両方』っていう道を模索するかですよね。ゲームとかは。