「―――ヒナタ?」
ひょい、と金の色が開いた目に飛び込んできた。
澄んだ青い瞳がヒナタを覗き込んでいる。
「ナルト君…」
「ん?」
「シカマル君は…?」
「あーー?」
ヒナタが言った傍からぼさぼさの黒髪が現れる。寝起きそのもの、といった様子のシカマルの目は、見えないくらいに細められている。
なんとなく、状況を思いだした。
今日は銀獣の任務の後にナルトだけが任務があり、ヒナタとシカマルは休みだったのだ。
残された2人は禁術の解読を試み、開発を進め、何とか完成させるとそのまま寝てしまった。足の踏み場もないほどに巻物を散らかした惨状に、ナルトは大体の状況を察したようだった。
「あー…ったく。シカマル」
「………あ?」
いまだ半分は寝ている状況のシカマルに呆れ、ナルトはごろんと転がった背中を蹴るが、起きる気配はない。
「ああもう。お前今日は飯当番だろ!?」
シカマルの耳を掴んで、思いっきり叫んだ。
それにヒナタが驚いて、目をしばたかせる。肝心のシカマルはいまだぼんやりとしたまま。
…とはいえ、一応聞いてはいるのか、ふらふらと立ち上がり、器用に足元に散らかる巻物を避けて台所へ向かう。
大丈夫なのか?と、不安げにシカマルの背中を見守っていたナルトとヒナタだが、案の定聞こえてきた大騒音に、慌てて駆け出した。
「シカマル君!だ、大丈夫!?」
「シカマル!?」
「………あー?」
一体全体何をしようとしたのだか、包丁とこしょうを手に持って、鍋を頭からかぶったシカマルに2人して固まった。しかも床にはこれでもか、というほどに巻き散らかされた調理器具。
…何がしたかったんですか?
まだ包丁と食材なら納得できようというものだが、あいにくと彼が持っているのはこしょう。何がしたかったのかさっぱり見えてこない。
「………?」
青ざめて、台所に入ってきた形のまま固まってしまった2人の姿に、まだまだ寝ぼけ眼のシカマルは、不思議そうに首をかしげた。かぶっていた鍋が、シカマルの首の動きにつられて床に落ちる。そのやかましい音にナルトとヒナタは我に返った。
「駄目だこりゃ…」
「うん。そうみたい…」
大きなため息をついて、ヒナタは散らばる器具を回収し始めた。ナルトは半分眠ったままのシカマルを回収して、居間に放り込む。完全に目が覚めたら、自主的に机でも拭き始めるだろう。
寝起きの悪さはいつもの事とはいえ、まさか昼寝でもここまでとは。
「凄いね。シカマル君」
「あー。だな。もう一種の才能だよなーあそこまでくると」
2人で笑いあう。
彼らとあの時出会わなかったら、きっとこんなに安らかな気持ちではいられなかっただろう。
ふと思い出す、叔父との約束。
その大事な約束は破ってしまったが、きっと許してくれるだろう。
どんな時でも…己の生が尽きる、その最後までヒナタの幸せを望んでくれた人だったから。
自分は、とても幸せだ。
「夢を、見たの」
穏やかに笑って、ヒナタが言う。
突然の言葉に、ナルトはただ首を傾げただけ。
ヒナタがとても嬉しそうだから、口は挟まない。
「叔父様を失った時の。それからナルト君とシカマル君に出会ったときの、夢」
「…あーーーーあの時」
「そう、あの時」
苦々しく顔をゆがめたナルトに苦笑する。覚えているのであろう、既に暗部として活躍していたにも関わらず、動揺してみっともないほどに怯えてしまったことを。
もっともそれは、シカマルにも言えることらしいが。
そう。あの時既に彼らは暗部だったのだ。
「赤、だったなー」
「うわっ!シカマルっっ!」
いつの間にか、ヒナタとナルトの後ろでぬぼーっとして立っていたシカマルが口を挟む。
ようやくその瞳に知性の輝きというか、生気が宿っている。
「とても綺麗な金と銀だった」
にっこりと笑うヒナタの目には、きっと今もナルトとシカマルの色が見えているのだろう。
初めて会ったそのとき、何故だかヒナタの力はナルトとシカマルにも伝染した。
だから、彼らの目には一面の白と、その中心にある赤が見えた。
「俺さ、お前らと会えてすっげー嬉しい」
満面の笑みを浮かべるナルトの笑顔は、力なんてなくても判る。
ひたすらに闇を照らす金の明かり。
「俺も、お前らに会えたこと、感謝してるぜ?」
ふっ、と息が抜けたかのように笑うシカマル。
優しさに溢れたまなざしは、月のように白々と銀の輝きを灯す。
「勿論。私もね」
にっこりと笑うヒナタの笑顔。
全ての負の感情を焼き尽くしてしまうような、強い、温かな炎の輝き。
赤に出会って変わった人生を。
―――心から、今、愛しいと思う。
2005年9月18日
鹿陽さんからのリクエストで 銀獣設定で「幼いヒナタと他2人の出会いと、ばれ以前に銀獣としてこなした任務あーんど私生活」でした。
…私生活と…出会い、かな?
3人一緒で住んでいる、というのもご希望だった気がするので、3人一緒に住んでいる設定で。
尋常ではなくお待たせしてすみませんでした。
リクエストありがとうございましたvv