本当に強い。
 真面目に強い。
 ムカつくほどに強い。


 どれくらい強いか…っつーと暗部最強部隊第3班、通称"葉火"の隊長であって暗部部隊長するくらいだ。
 最近では"木の葉の守り神"だなんて呼ばれて、暗部bPの地位を確立している。


 暗部名 緋赤


 それが俺たちの隊長の名前だ。







『彼女の為に。彼の為に。』







 しくじった。
 完璧に。
 どう考えても失敗したのは自分。
 たった一人、こうやって窮地に立たされているのはその為―――。
 味方の血も、敵の血も、万遍なく自分を濡らしている―――。
 4人いた他の3人は既に死した。

 最悪だ。
 意識が霞む。
 勘弁してくれよ―――。
 荒い動機の中で、どうしてだか透明な雫が頬を濡らした。
 血と交じり合って、ぽたりと落ちる。
 後方からの追っ手が近づいてきている。

 クナイはもう―――ない。
 愛用の刀も、その他の忍具も、巻物も―――全て使い果たした。
 チャクラすら―――ない。

 変化なんてとうに解けた。
 暗部面すら失った。
 笑ってしまうほど惨めだ―――。
 ここで、潔く死を選ぶのが本当だろう。
 暗部ともあろう者が、敵に身柄を拘束され、頭の中をいじられるなんてあってはならないことだ。


 けれど―――。


 死にたくねぇ。
 死ぬわけにはいかない。

 嫌だ。


 閃光のように浮かぶのは白き瞳をもつ少女。


 次いでうるさいくらいに元気な少年。
 そして、明るい笑顔を絶やすことのない少女。



 帰るのだ。
 あそこに―――。

 だから―――死ぬわけにはいかない―――。









 薄れゆく意識の中。








「シカぁ!!!!!!!」

 不意に聞こえたその声に―――目を見開いて…笑った。












 はじめ、それに気付いたのはネジだった。
 下忍の中でもまだまだ新人のカカシ班、アスマ班、紅班、ガイ班はよくひとまとめで任務をさせられる。
 それは未熟である証明でもあり、まだまだ下忍のなかでも下なのだと思い知らされる時でもある。

 4人の上忍に、12人の子供達―――。
 てんでバラバラの個性をもつ下忍らに言い渡された任務は宝石探し。
 時価何千万という高価な代物の任務が彼らに回ってきたのは、諜報に長けたメンバーが多いことと、なによりも人海戦術による探索が可能になるからだった。
 その12人の子供達…今日は1人足りなかった。

「…アスマ、1人足りないんじゃない?」
「あー。アイツは今日休み。体調不良だと」
「はぁ?シカマルの奴何やってんだ?」
「キバ、誰にでも気分が悪いときくらいあるだろう」
「そ…そうだよ…」

 思わず上忍のやり取りに口を挟んだキバは、同じ班の2人にたしなめられる。
 同じようなやり取りをするのはカカシ班のメンバー。
 ナルトがサクラに殴られているあたり、ナルトが何か馬鹿なことでも言ったのだろう。

「さ、サクラさん!今日も素敵です!!」
「リー…あんた懲りないわねぇ…」
「テンテン諦めろ。それはもう病気だ」

 どこかのどかなやり取りをするのはガイ班の3人。
 その後ろでは熱血教師が青春だと叫んでいる。

「でも、どうしたんだろーね。シカマル」
「そうよねー。昨日は別に普通だったわよねー?」

 シカマルのチームメイトでもある彼らは、珍しくも真剣に彼の心配をしているようだ。

「あんた達、いい加減任務に入るわよ。ただでさえカカシのせいで遅れているのよ?」

 ぴんとした紅の声に声に上忍も下忍も、頭の中が任務のことに切り替えられた。
 ただ1人ナルトだけはまだ、つまんねーとか何とか騒いでいたようであるが。
 とにかくそうやって始まった任務の中で、ネジが異変に気付いた。
 もっともそこに近くて、白眼を使っていたから、気付くことが出来た―――。

 森の中にぽつんと見える黒。
 左によろめき、右によろめき、少しずつ少しずつこちらに近づいている。

「何だ―――?」
「どうしましたか?ネジ」
「何々?見つけたのー?」

 同じ班の2人には、まだ何も見えない。
 けれども彼の目はひどく遠くまで見通す。
 固まっている3人に、何事かと、わらわらと子供達が集まる。

「一体何だってばよ!?」

 ―――と、ナルトがネジに口を開かせようとした時―――

 彼らの横を1人の子供が駆け抜けた―――。
 黒い髪と、木の葉の至宝たる白き瞳を持つ少女。
 何を言うわけではなく、本当に唐突に下忍の群れを飛び出した。
 彼女は―――必死だった。

「な、何?ヒナター!?」

 いのの声に、少女は答えない。その背はみるみる小さくなって、テンテンがその後を追った。
 たった一人の少女を状況も分からないところに突っ込ませるわけにはいかない。
 下忍メンバーもそれにならう。






 そして―――






 目を丸くして硬直した―――。
2005年3月11日
444ヒット、愛美様からのリクエストで「ラブラブなスレシカスレヒナで、ばれ(ばらし)ネタで、最強なヒナタ」です。