「…よぅ。ヒナ」







 その非常にいつもと変わりのない彼に、全身の力が抜けた。


 へたり込んだヒナタの身体を彼が抱きしめる。
 強く強く。
 失くしてしまうのを恐れるように。

「シカぁ………っっ」

 その腕の中は暖かくて、いつもの彼のもので。
 震える両手で捕まえた。

「もう!バカっ!私怒ってるんだからね!?」

 彼のぼろぼろの服を掴んだまま身体を離して、その顔を至近距離で見つめる。
 シカマルは何やら言いにくそうに視線をさ迷わせたが、大粒の涙が浮かぶヒナタの目に堪忍したのか、一つ息をつく。

「…だぁーって。好きな女より弱いなんて情けねぇじゃんかよ」

 その言葉に、ヒナタはきょとんとして、後ろにいたテンテンとナルトは思いっきり噴き出した。

「あはははは。確かにそうだよね」
「ってーかそりゃ相手が悪いって。なーテンテン?」
「そうだよねー。だって相手は、暗部最強の里の守り神、緋赤だもん。…でもこないだナルト、あたしに負けなかったっけ?」
「へっ!あっ!うっ!?…ってあー!あれってシカが作戦出した奴じゃんかぁ!!」
「でも負けたよねー。なっさけなーい!」
「テンテン〜〜〜〜〜!!!」
「あはは。うそうそ。お姉ちゃんはちゃーんとナルトが好きだもんねー」
「俺も俺もっ!ちゃーんと姉ちゃん好きだぜ!」
「ありがとー」

 にこにこと言葉を交わす彼らの表情は柔らかい。
 まるで春の陽だまりのように、見てる側まで暖かくなるような笑顔を見せる。
 ぽかんと、そのやり取りを見守っていたシカマルとヒナタはお互いに顔を合わせて、自然と顔を綻ばせた。

「あのね。シカマル。私はシカマルが居ればそれだけで幸せだよ」

 弱いとか、強いとか、そんなことは関係ない。
 シカマルだから好きになったのだ。

「ん。今回は俺が悪かった。ごめんヒナ」
「次は許さないからね」
「OK。それよりヒナ、傷、ついてないよな?」

 シカマルは、血に染まったヒナタの身体を見て、心配そうに彼女の頬に手を這わせる。
 それにヒナタはくすぐったそうに笑って、シカマルの頬に手を置いた。
 元から至近距離だったのが、更に近づいて、今では互いの吐息が届くほど。

「うん。大丈夫。シカは大丈夫なの?必要なら私のチャクラあげるよ?」
「大丈夫だって。ナルとテンテンが頑張ってくれた。ちょっと歩けねぇみてぇだけど」
「それ大丈夫じゃないよ。立てる?」
「ん」

 ヒナタがシカマルが立ち上がるのを補助して、よろめくの支える。
 そのシカマルの両腕をナルトとテンテンが取って、その下に己の肩を入れる。
 シカマルを奪い取られた形になって、ヒナタは首を傾げる。
 対してナルトとテンテンは怖いくらいな笑顔。

「ナル、テンテン?」
「何だよお前ら!」

 シカマルの声に、ナルトとテンテンは声を低くして答える。
 それはヒナタの耳に入らず、シカマルにだけ届く音量。

「だって、シカってば、ヒナを傷つけたし。そんな奴にヒナを触らせんのやだし」
「ヒナが許してもそれを私達が許すわけないでしょー?」

 にっこにっこと黒い笑顔でシカマルを見る。
 自分達にとって彼はいなくてはならない存在だけど、彼は自分達の一番大切な存在を深く傷つけた。
 1人だけ勝手に任務に行ったのをヒナタが知ったとき、どれだけ彼女が傷ついて己を責めたか。
 本当は今日の下忍任務だって休ませたかったくらいなのだ。

 大体こっちだって本当に心配した。
 "葉火"である自分達が"葉火"以外のメンバーと組むことなんてない。
 その"葉火"のメンバーである黒鉄が突然他の暗部と一緒に任務に出かけたのだ。
 しかも自分達に何の言葉もなく。

 もし、シカマルが怪我をしていなければ10発は殴ってた。
 ナルトとテンテンで10発ずつ。
 ちなみに今だって、シカマルの回復を待ってその後殴る気充分だ。
 それだけこっちは心配したのだから。

「…わりぃ」

 言葉は素直だが、顔が引きつっている。
 シカマルと彼らの付き合いは長い。
 これから加えられる制裁はよく分かっている。
 自分達は"葉火"の隊長を傷つける人間を決して許しはしないから。
 それはきっと緋赤も同じなのだろうけど。
 それだけ"葉火"という空間を自分達は愛しているのだから。

「あ」

 小さくヒナタが声を漏らした。
 彼女の目に入ったのは、ぽかんとしたままの下忍と上忍。
 ―――すっかり忘れていた。

「あーーーそうだった」

 と、テンテンが苦笑いを浮かべ、

「ってかそういや、何でお前達がこんなとこに居たんだ?」

 シカマルが今更ながら問う。

「下忍任務だったんだよねー」

 ヒナタが答えれば

「しかも合同の」

 ナルトが繋げた。
 それにシカマルが眉に皺を寄せて、大きな息をつく。

「あーなるほど。めんどくせーな」
「どうしようか?」
「どうするって…どうしよーもねーし?」

 いかにも大儀そうなシカマルに笑って、テンテンがぽん、と手を打った。 

「忘れてもらいましょ」

 そのあっけからんと言われた言葉に、"葉火"のメンバーが頷いた。

「そーだね。全部綺麗さっぱり」
「そーだな。そのほうがめんどくさくねーみたいだし」
「って言うか、それすんのオレ?」

「「「勿論」」」

 答えは即答で、しかも3重奏だった。
 このメンバーの中で、一番チャクラを使っていないのはナルトだ。
 ヒナタは今の今まで戦闘をしていたし、テンテンはシカマルを救うためにほとんどのチャクラを消費した。
 シカマルは言うまでもない。
 その会話は、他の人間には届かない。
 はぁ、と大きくナルトが息をついて、結界を解除した。

「ナルト!!」
「これどうなってんのよ!!!」

 と、同時に驚愕に染められた下忍の声。
 その声、顔に含む恐怖を"葉火"は見逃さない。
 ナルトは答えない。
 にっこり笑って黙殺。

 そして印を組む。
 簡単な印。
 だからこそ拒まれにくい。

「とりあえずお休み」

 ぱたり、ぱたり。

 簡単に簡単に下忍たちが崩れていく。
 上忍が、堪えながらも崩れていく。
 強烈な睡魔が彼らを襲う。
 その場に残ったのは"葉火"。

「ちょっと、残念かな」
「何が?」
「正直、演技も面倒臭いから。共犯者にすることも出来たかな?って」
「それって何人かは、でしょう?」
「うん。2,3人」
「その他はどっちにしろ記憶を消さなきゃいけねぇんだ。余計めんどくせーぜ?説明も必要だし」
「オレもそー思う。サスケもサクラも無理」
「そうだね」

 けれど、下忍と暗部の二重生活に疲れているのが事実。
 シカマルとテンテンは力を抑えるだけだが、ヒナタとナルトには性格を変えなければならない。
 ヒナタは恥ずかしがり屋で気弱な少女を演じ、ナルトは無駄に明るく、バカをしてばっかりの少年を演じる。

 結構疲れるのだ。
 そのことはシカマルもテンテンも知っている。
 けれど、今、彼女らが演技を止めてしまったら、彼女は日向の当主に祭り上げられてしまうし、彼は里によって消されるだろう。

 仕方がない、と言うのは簡単。
 シカマルがテンテンに担がれた状態から、ヒナタに手を伸ばした。
 テンテンはそれを支えて、ヒナタが楽な体勢でシカマルと抱き合えるように調整した。
 本当に彼女が彼を必要とするとき、自分達はそれを拒まない。

 その後、話をしながらも、下忍や上忍の一人一人に記憶隠蔽術をかけるナルトに抱きつく。
 ナルトは笑ってそれを受け止める。

「いつか、さ。中忍になってからでいいから、私達で組ませてもらわない?」

 ンテンの言葉に、全員が注目した。

誰かが中忍になれば、下忍を率いることも出来るでしょ?…だから、4人で組もうよ」

 表も裏も、この4人で過ごそう?
 一瞬ぽかんとした表情を浮かべ、すぐに3人は満面の笑みを浮かべた。

「うん。それいい…」
「いいな…それ」
「うん。うんっ!!さっすがねーちゃん!」

 3人の賛美の声に、テンテンは笑う。
 この4人で組むなら、任務中に演技する必要なんてない。
 力も抑えないで、適当に任務こなして、適当にばれないようにしとけばいい。

「うわっ。中忍試験ものすごく楽しみになってきた!!」
「本当。私とナルト君は演技があるから、厳しいかもしれないけど、シカとテンテンはばっちりじゃない?」
「よゆー。大体1人が中忍になりさえすりゃーいいんだ。めんどくせーときはテンテンに任せる」
「シカ、あんたねー。言っとくけど、私だってここまでしか出せないってラインがちゃーんとあるんだからねー」
「その、ここまでが結構あるだろ?」
「そりゃそうだけどね」
「まぁ、オレ達だってそれなりにいいとこにいけるだろうしなー」
「私はどうだろう?チームのときはいいけど、自分ひとりでの試験があるとあまり力出せないから…」
「ま、ヒナが駄目でもこのメンバーで誰も受かんないなんてこと有り得ねーよ」
「そうだね」
「楽しみだなー」

 そう笑いあって、ナルトが術を全員に掛けると、ナルトとテンテンが1体ずつ影分身を作り出した。
 影分身が変化して、それぞれ、ヒナタとシカマルを作り出す。

「シカー。後から10発は殴らせてもらうからー」
「はいはい!俺もねーちゃんと同じくー!」

 満面の笑みで、2人(4人)は手を振った。

「ごめんね。2人とも、後任せちゃって…」
「全然OK〜隊長はうちらのバカな同期を頼みます☆」

 テンテンがびしっと、敬礼して、笑った。
 ヒナタは苦笑してそれに返す。

「…お前らなぁ」

 心底嫌そうなその声に、"葉火"のメンバーは笑う。
 このメンバーでいる時は常に笑いが広がる。
 暖かに穏やかに、時が流れる。








 彼はあまり強くない。
 他よりは強いけど、赤夜より弱いし、弦蒼より弱い。

 けれど、とても強い。
 作戦を立てるのは誰よりもうまい。
 一番戦いにくいのも彼だ。

 それは、とても大事なこと。



「ねぇ、シカ。シカは今でもとても強いよ。けれど、シカがただの力が必要な時は、私に言ってね。私はシカの為にいるんだから」
「…ヒナ。ヒナが俺を必要な時は、俺に言えよ。俺もお前のためにいる」


 きっと、自分達は足りないものを互いに補うために生まれてきた。
 だからこんなにも互いを求める。



「愛してる」



 戯れのように言ってみたら、シカマルが笑った。
 初めて、彼が笑うのが、綺麗だと思った。



「先に俺に言わせろって」



 少し、笑ったら、唇を塞がれた。







 私はきっと、彼の為に生まれてきた。
 俺はきっと、彼女の為に生まれてきた。




 だから―――彼の為に生きる。
 だから―――彼女の為に生きる。
 2005年3月16日
 キリ番444hitで愛美様のリク小説「スレヒナスレシカのラブラブ?戦闘ありのばらしか、スレヒナの総受け(ヒナタ最強?)」でした。
 その内容で進んでいたはずが、途中から色々変わってきて
 「スレヒナスレシカのラブラブなんだけど、スレナルスレテンに出番を奪われつつ、スレヒナ最強&総受けで中々ヒナタとくっつけないシカの戦闘ありのばらし(ばれ)ネタ」
 になっていった気がします(笑)

 愛美様の期待に添えたかどうか、非常に不安なのですが、どうぞお受け取りください。
 それでは、リクエストありがとうございましたvv