「…って…テンテン!シカ大丈夫!?」
うずまきナルトこと弦蒼は、放心…というか殺気に当てられて身動きの取れない、木の葉の下忍たちとその上忍らに結界を張ると同時に、赤夜の元に駆け寄った。
ちなみに、上忍らに色々と問われたが、にっこり笑って黙殺した。
「うん。大丈夫!私を信じなさいって」
黒髪を2つのお団子にまとめた少女は、シカマルに手を当てて、額にうっすらと汗を浮かべて、真剣なまなざしで、けれども大輪の笑みを咲かせた。
ナルトの好きな、けれど時に腹立たしい笑みだ。
彼女のこの笑みは自分達の前でしか見せない本当のものであるのを知っているから。
そして自分達を心配させないが為に浮かべる笑みなのを知っているから。
「無茶するなって。俺も手伝うから」
そうでないと彼女は1人で全部背負ってしまう。
2人で分け合える苦労をたったの1人で背負ってしまう。
「うん。…ありがと。ナルト」
それを彼女が素直に分け合えるのは同じ"葉火"のメンバーだけ。
緋赤に拾われて、共に生きてきた彼らとだけ、自分達は本当の自分に戻れる。
それは、目の前で倒れている血まみれの少年も同じこと。
何故彼が"葉火"以外のメンバーとの依頼を受けたのか、自分達は知らない。
けれど、そこには何かしら理由があったのだと信じている。
「死ぬんじゃねーぞ…シカ…」
彼が死んでしまったら、駄目なのだ。
彼が必要なのは自分達。
何よりも彼が居なくなったら大切な大切なあの人が傷つく。
だからいっそ傲慢に自分達は彼を望む。
何が起きているのだろう。
何がどうなってしまったのだろう。
結界に閉じ込められた彼らは、結界によって殺気を遮断され、ようやく己を取り戻す。
けれどもその瞳は焦点が合うことはなく、ぼんやりと目の前を眺めている。
そこに映るのは燃え盛る炎。
全てを赤く染めるほどの強い炎であるのにも関わらず、それが木や草を焦がすことはない。
時折、ぼとりと、何かが振る。
それは、下忍達に何か認識される前に炎に包まれる。
なんと幸運なことか。
けれど上忍らにはそれが何であるか、分かってしまった。
人の欠片。
それは、腕であったり、足であったり。
人の形を取らない人のパーツ。
それは、確かな重量感を持って彼らの目の前に落ちてきては、燃えていく。
時折炎に照らされるのは1人の少女の姿。
全ての死を招く忍の姿。
―――されど。
惹かれずにはいられない。
こんなにも彼女のことが恐ろしくて、今にも逃げ出したいほど身体は震えているのに。
それでも目は彼女の姿を追っている。
消えて、現われ、その度に全ての視線を釘付けにする。
見惚れずにいられないのだ。
だって、その、糸を操る様は美しくて。
まるで極上の舞を見ているよう。
―――最後の1人に止めをさした。
今しがた相手の身体に埋まっていたクナイを抜き出せば、すぐさま炎がその身体を包み込む。
それを、ぼう…と見る。
あまりに頭に血が上りすぎて、感情の制御が追いつかなかった。
次第に理性が戻ってくる。
全身あまなく血に濡れた姿でようやく、この血の宴の発端となった出来事を思い出した。
「シカ……!!!!」
彼は?
彼はどうなった!?
赤夜と弦蒼に任せた。
その後は?
記憶をたどって、緋赤はそこに向かう。
どうしよう。
どうしよう。
彼がいなくなってしまったら―――っっ!!
2005年3月16日