翼を求めるもの。

 暗闇に身を浸し、紅に世界を染める。







 かつて、木の葉には2人の暗部がいた。

 黒髪と黒い目をもつ青年。
 金髪と青い目をもつ青年。

 彼らは名を持たず、それでも確かなその腕前故に他国の手配書に名を記した。

 黒の名無し
 金の名無し


 と。








 暗闇の中、ひっそりと駆け抜ける影が2つ。
 身体中から血臭を漂わせ、森の中を危なげなく駆け抜ける。

「黒、後13人」
「お〜。んじゃ後は任せた〜」
「それじゃあ行ってくる」
「行ってこい」

 黒髪の暗部はなんともやる気なさそうに金髪の暗部に手を振る。
 そんな呑気なやりとりの一瞬後、金色の残像を残して、金髪の暗部は消えていた。
 張り切ってるな〜…と、1人ごちて、その後を追う。
 彼の気配は自分にも察知できないが、自分達が追っている13人の忍の気配は簡単に捕まえることが出来る。

 その気配を追いかけて、のんびり顔を出してみれば、もはや残った忍は満身創痍。
 月の光を浴びてきらきらと輝くのは自分の相棒の持つ、血に濡れた刀。
 場違いだが、綺麗だな。と感想を抱いて、彼らのやり取りを高みから眺める。

「―――貴様…何者…!!!」
「名前のない暗部です〜」

 と、聞こえるはずのない答えを、黒髪の暗部…黒の名無しと手配書に記された男は返す。
 金の残像が舞い散りて。
 刃は鈍く月の光を反射し、きらり、きらりと、振るわれるたびに輝く。

 金の名無し、と手配書に記された男は、ゆらりと舞い上がり、全てを終わらせるために印を組んだ。 ひどく単純なように見えて、本来はひどく扱いの難しい術式。
 ポウ。と光が空に浮かびて、術の完成と同時に光が分裂し、細かく細かく下にあるものを分断した。

「抜け忍58名の始末終了」

 と、金の名無しが楽しそうに声を張り上げ、黒の名無しに向かって手を振り上げた。
 それは、自分達の間だけで通じる合図。
 黒の名無しが印を組めば、青白い炎が幾つも幾つも生じて、もはや肉片となった抜け忍達の身体を包み込む。
 それらが静かに燃え尽きれば、その場はまるで、何事もなかったのように血一滴すら残っていない。

「帰るぞ金」
「おう。黒」

 2人、頷いて、来た時と同じように暗闇の中を駆け抜けた。






 翼を求めるもの。

 空を求め、更なる何かを求め続ける。






 血溜を見つけて、なんとなく近づいた。

「黒?」

 唯1人の相棒である暗部、金の名無しの声は取り合えず無視した。
 ただ、ありえない場所にありえない光景が広がっている事に興味を覚えた。

「―――誰?」

 血溜に沈むのは、なんと同じ年の少女。
 自分達と同じようにアカデミーに通い、学ぶ、明るい少女だ。
 金の名無しの、わずかに驚いた気配が伝わってくる。
 まさか、こんな住宅街の片隅で、こんな光景に出くわすとは思いもよらなかった。

「よぉ」

 気軽に、まるで知り合い同士が出会ったときのように黒の名無しが声をかければ、素晴らしい殺気を送られる。
 その、黒の名無しに他の誰かを思わせる翠の瞳は、ひどく冷たく暗い。

「黒、もう行こうぜ。報告書書かねーとだし」
「金、待てよ。…あんた、春野サクラだったよな。確か。アカデミー生の」

 ぴくりと少女の肩が震え、同時にクナイが飛んだ。それをあっさりと黒の名無しは受け止めると、サクラの耳元に投げ返す。
 至極自然に宙を舞ったクナイは、サクラの今や深紅に染まった桃色の髪を幾らか切り落とした。
 反応することすら出来なかったサクラは、自分と相手との実力差に愕然とする。

 そのサクラの高さに身体を折り曲げて、黒の名無しは暗部面を取る。
 冴え冴えとした、ひどくひどく深い瞳が、サクラの瞳を捉える。
 まるでそれに縛られてしまったかのように、サクラの身体は動かない。

「春野サクラ。お前は翼を求めるか―――?」
「―――?」

 サクラは意味が分からないという風に、眉間にきつく皺を寄せる。
 金の名無しが少しだけ首を傾げた。

「この世界から。お前を縛るものから抜け出すための翼が欲しいか?」

 その、言葉に、サクラは思わず目を見開いた。
 そして―――。


「―――欲しい」


 しっかりと頷いたその言葉に、黒の名無しは満足そうに頷いて、わずかに笑った。

「共に来い。春野サクラ。―――翼を見つけるぞ」 

 それが、サクラと彼らの初めての出会い―――。





 ………なんて非常に印象的な、強烈な出会いのすぐ後で。

「あ。ちなみに俺は奈良シカマルでこいつがうずまきナルトな」
「…………………はい?」

 ほい、と、突然見覚えのある姿になって、黒の名無しがそうのたまったりなんてして。
 サクラに驚愕されて叫ばれたあげく、散々攻められたのは彼らだけの知る話。