ガラクタの世界 『失敗』 「火影様になんて報告するよ…」 「…負け犬になりましたって?」 「あーーーーー!そんなの嫌ーーーー!!有翼の任務遂行率100%に傷がつくなんて…」 「とりあえず忠告は伝えるか」 「日向はうかつに手を出さない方がいい…ってか?」 「…最悪。くーやーしーいー!!!」 髪を乱して叫ぶ桃羽に呆れて、黒羽は金羽に目をやる。 さっき、ヒノトがいなくなった時から、不気味なくらいに黙っている。 確かに感情の薄い人間ではあるが、金羽は、任務に対しては必死だから、この反応はあまりに奇妙だ。 何かを必死に考えている様子の金羽に、桃羽も気付いて、黒羽と首を傾げる。 付き合いだけは長くとも、彼の考えていることは自分達には分からない。 彼は確かに自分達を信用はしていても、彼自身は心を開いていないから。 火影以外の人間に心を開くことなんてないから。 「なんなのかしら…?」 「さぁ…」 2人、小さく首を傾げて、金羽の姿を見守る。 彼は気付いているだろうか? 彼が自分達のことを想ってはいなくとも、自分達は彼のことを想っているのだと。 まるで弟のように、大切な存在であるのだと。 わずかにわずかに目を開いた。 暗闇。 もっとも自分が慣れ親しんだ空間だ。 半開きの口が、少し、動いた。 祈るように、けれど音をなさずに、一つの名を呼んだ。 どくどくと、自分の肩より流れ出るものを、少し、手のひらで受け止めて、目の前の男の身体に擦り付ける。 それと同時に、男の手が自分の短い黒髪を掴み取った。 ずるりと、身体が持ち上がる。 夜目に明るい真っ白な裸身が闇を照らす。 感情の見受けられない白い瞳が、ぼんやりと、男についた血を眺める。 男の身体についた己の血。 真っ赤なそれは、男の心臓の位置を染めている。 「なんの、つもりだ」 「なにも」 そう。なんでもない。 その答えは、男の気に入るものではなかったのだろう。 腕に、刃傷が増えた。 浅く抉られた部分から新たに血が噴き出す。 息を深く深く吐き出して、じわじわと広がる痛みに耐えた。 例え傷を負うことに慣れようと、痛みを完璧に消すことなど出来ない。 その感情を外に出すことなど無くとも、この男はその事を知っている。 だから、執拗に血を流させる。 まるで自分に血を見せ付けるように。 「―――っっ!!!!」 胸部から腹部にかけて、赤い花が咲く。 一本の長いその傷は、まるで縄のように、身体に刻まれた。 思わず顔に出た、苦痛の表情に男が笑う。 楽しそうに楽しそうに笑い続ける。 深い、刀傷でありながら、最初にじわりと血を流したまま、それ以上血が溢れ出すことが無い。 それは男が切ってすぐに止血術を使ったから。 傷つけ、治す。 ―――壊して、造る。 ガラクタを繋ぎ合わせて造った自分という存在は、まだまだ利用価値が高いから。 どれだけこの男が血を見ることに執着して、自分を壊すことに執着していても、自分に利用価値がある限り、男は自分を壊せない。 ガラクタはガラクタの世界を踊る。 男の創る世界を踊り続ける―――。 さぁ、踊り続けよう。 どこまでも。どこまでも。 ――― 夜 は ま だ 長 い ――― |