ぽかん、として、2人の少年はそれを見上げた。
 いのはただ忌々しげにそれを見上げ、わざとらしくプリントを取り出す。

「でっけーーーー…」
「日向んち…すげーーーー」

 どん、と、構えた古めかしい昔ながらの建物は、その門の大きさだけでも相当なものだ。
 とりあえず、周囲を見回したところ、日向家の壁は延々と続いている。
 いのに強制的に連れられてきた2人は、延々と道に続く白い壁は一体なんなのかと思っていたわけだが、まさかそれが日向家の一部だったとは…。
 首が痛くなるほど門を見上げ、一体全体どうすればいいのかと、きょろきょろと周囲をうかがった。
 なにぶんこれほど大きな家にお邪魔する事などない。
 むしろどうやったらこの門は開くのだろうか?

 いのは、鞄を置いて、深呼吸をすると、僅かに震える右手を持ってインターフォンを押した。
 ナルトとシカマルは何となく直立不動の状態で、それを見守る。
 しん、と静まり返っている門の向こうは何の変化もない。
 誰もいないのか?いやそんな事はありえないだろう?
 そんなやり取りを少年たちは目で交わす。
 いのは睨みつけるようにして門を見上げている。

 いい加減もう一回押したほうがいいんじゃないか、という時に、プツ、と何かの音がした。
 3人は一斉に音の方を見る。
 そこには今頃気付いたがテレビのような液晶画面がついていた。
 家自体は昔ながらのものだが、最新の設備なのだろう。

『日向家に何の御用向きでしょう』

 画面に現れたのは品のよさそうな青年だった。
 いのは、その青年に向かってプリントを見せるようにして突き出す。
 画面の近くにカメラがあるのは間違いないだろう。

「私は木の葉高校の山中いのと申します。今日は、ヒナタさんが風邪とお聞きしましたので、お見舞いに来ました」

 お見舞い、のところでいのは少年たちを僅かに睨む。
 少年たちは、びくっ、として、ここに来るまでに買わされた花束と洋菓子を己の前に差し出す。

「担任の先生より預かってきたプリントもありますので、是非、ヒナタさんにお会いしたくて」
『それは、ありがとうございます。しかし、ヒナタ様は現在体調があまり優れず、人にお会いできるような状況ではありません。今から使いのものをやりますので、それにプリントをお渡しください』
「っっ!!」

 青年は、表情が全く変わらずままに言い放った。
 少年たちは思わず、ぽかんと青年を見上げる。
 いのにとって、これは予想の範囲内だったらしく、にっこりと笑って、

「いいえ、ヒナタさんに直接お会いしたいのです。私はヒナタさんにとって自分は親友だと思っています。勿論、私もです。お会いして、無事を確かめたいのです」
『そうは言われましても、今現在ヒナタ様はお休み中です』
「起きるまで待ちます。寝ている姿を見るだけでも構いません」
『困ります』
「お願いします。本当に心配なんです」

 深く頭を下げたいのの後ろで、少年たちも慌てて頭を下げた。
 ナルトは内心かなり辟易として、軽く舌打ちした。
 シカマルも苛々しているのか、小さく「めんどくせー」と聞こえてきた。
 何故人のお見舞いに行くのにこんなにも拒まれなければならないのだ。

『しかし……』『入れてやれ』

 がらりと変わった低い声に、驚いて3人は頭を上げた。
 はさっきまで青年の姿しかなかった画面に、何者かの姿が写っている。
 身体しか見えないが、頭ごなしのその言葉からも偉い人間なのだろう。

『貴方様がそうおっしゃられるなら…』

 青年はそう呟くように言うと、3人に…正しくはカメラに向き直った。

『許可がでました。使いのものをやります。しばらくお待ちください』

 ありがとうございます、と言うよりも先に、ぶち、とカメラは切れた。

「んなっっ!!」
「うっしゃっ!!」

 絶句した男2人には構わず、いのはガッツポーズを作った。

「なんなんだってばよ!あれは!!」
「めんどくせー…」

 そんな事を言っている間にも門が開いていく。
 自動になっているのだろう。
 周囲に人の姿は見受けられない。

 そして、待つ。
 待つ。
 待つ。

「おっそいってば!!!!!」
「カカシ先生なみだな、めんどくせー」

 待てども待てども現れない使いの者とやらに、苛々と時間を過ごす。
 門は開いているのだ。
 入ってはいけないだろうか?

「っだーーーーーーーーーーーーー!!!!!」

 いい加減にしろ、と叫ぶナルトの頭をいのがはたき、シカマルは何かに気付いたかのように頭を上げた。

「ナルト、ネジ先輩だ」
「え?どこどこーーー?」 
「は、ネジ!?」

 シカマルの示す方向を全員で見守れば、確かにあの長い黒髪とヒナタに良く似た面差しは、ネジのもの。
 日向ネジは日向ヒナタのいとこ。そして、去年卒業した木の葉学園の先輩の1人だ。
 何故かナルトを結構気に入っていた節があり、ナルトもネジを気に入っていた。

「…お前らか」

 ふっ、と息をついて、どことなく情けない表情でネジが呟いた。
 近くにやってくると、ネジの顔が異常なほどに青白い。目の下に隈がでている。いつも乱れる事のない髪も今は軽く一つに束ねただけ。
 髪がはみ出ようと何だろうと全く頓着していないように見えた。

「ね…ネジどうしたんだってばよ!?」

 唖然と口を開けた3人の視線に、ネジが小さく笑った。

「日向家の門をくぐることになったヒナタ様の関係者は、お前たちが初だよ」

 その、言われた内容にも驚いたが、ネジの発言にかなり驚いた。
 しれっと言ってはいたが…。

「「「さまぁ!?」」」

 "様"とは何だ?
 当然の疑問に、ネジは何でもなさそうに、軽く笑った。何もかもに疲れたような笑い方だった。

「学校で様付けなどするわけにはいかないが、ヒナタ様は本来俺とは身分が違う。当たり前の事だ」
「身分って…何よそれー」

 そんな江戸時代でもあるまいし、いつの時代の話だ。
 時代錯誤もいいところだ。

「もういいだろ。付いてこい。無駄な発言はするな。今日向は殺気立ってる」
「…ネジ先輩も?」
「…ああ。そうだな。俺もだ」

 普段温厚なこの先輩に何があったと言うのか…。
 ぎり、と歯を鳴らしたネジに、3人は視線を交わした。
 何だかとんでもないところにきてしまったのではないのだろうか?

 後悔後先たたず。

 恐る恐る、ネジの後ろに3人は付いたのだった。
2005年10月2日
ネジ先輩登場。