(長いな)
掛け軸に入って、結構たつが、未だ何処かにたどり着く気配はない。
ナルトは目を細めて、暗闇を歩く。その瞳に不安の色はない。暗闇に慣れてきた瞳は、先のほうに小さな扉を見出していた。
そして。
「……!?」
思わず身をすくませる。
その扉が僅かな音もたてずに、静かに開いたから。
薄ぼんやりとした僅かな光でも、ナルトの目を刺すには十分だった。
闇に慣れた瞳は、光に反応できずに立ち尽くす。
「…!!」
やんわりと、片手を引っ張られて、ぎょっとするが、一段と濃くなった日向の匂いに確信する。
この手の主は、日向ヒナタだ、と。
光と手の主に導かれながら、ナルトはおとなしく従った。
「日向」
光に目が慣れて、薄ぼんやりと見えてきた光景。
青あざを一つ、顔にこしらえた日向が、真っ白な着物を着てそこに居た。
「―――ナルト君」
日向ヒナタ、というおずおずとした少女の姿で、彼女は一瞬笑い、すぐにそれをかき消した。
「来て」
甘さの欠片もない、冷たく冷め切った表情になると、日向は手を解いてから歩き出す。足取りはしっかりしているし、口調もはっきりしている。
矢張り風邪ではないのだろう。
「…その顔は」
「あんたじゃないわ」
「分かってる」
「なら聞かないで」
「………」
先行く日向の白い腕を掴むと、小さく声を漏らした。着物の袖を僅かに持ち上げれば、腕に浮かぶ幾つもの青あざ。
自分のつけたもの。
その斑点のように浮かぶあざに、傷に、ナルトは言いようのない思いに震撼する。
「……離して」
「嫌」
拒絶の言葉に、一瞬だけ、日向の目が不思議そうに瞬いた。
しかし、すぐさまそれは無の表情へと移り変わり、ナルトの手を引き剥がす。
剥がそうとした、が、ナルトは日向の両の手を掴み、すぐ横の壁に押し付ける。
多分、初めてナルトは日向の瞳をまともに見た。
人より色素の薄い、灰の瞳。
色彩のない瞳は、ひどくうつろに、ガラスのような、輝きをしていた。
視線をちらりと日向の頬に落とせば、まだそんなに時間は経っていないのではないかと思える赤い華。
特に何も考えず、その華に唇を這わせる。
「―――っっ!!」
苦痛にか、それともそのナルトの行為にか、小さく漏らした日向の声がナルトに届く。
「誰が」
耳元で落とすように囁けば、日向の身体がピクリと震え、ナルトに向けられていた視線は逸らされた。その視線の先に回りこみ、一分の隙もない瞳で、ナルトは日向の目を見据える。
「言え」
まるで、それは、神の言葉。ひれ伏すしかないような存在感と威厳が、ナルトを包み込み、日向は思わず目を見張った。
ぞくり、と全身に鳥肌が立つ。視線が絡み、強すぎる蒼が日向の瞳を貫く。それはまるで蛇ににらまれた蛙のよう。
「……………父よ」
苛立たしげに口にして、日向はまた視線を外した。感情を振り払うように首を振って、今度は自分からナルトに視線を向ける。その瞳の中にある光の強さに、一瞬、ナルトは気圧された。先程まで日向の瞳にあった死んだようなうつろな色はない。今の日向の瞳はまるで鋭い刃のような光を湛えていた。
「放して。時間がないの」
「………」
ナルトは日向を押さえつけていた両手首を開放し、あごで先を促す。
ひどく傲慢なその態度に、日向は何も言わなかった。
先ほどまでに比べれば充分明るいが、それでも薄暗い廊下を日向は足音を立てずに歩く。ナルトもそれに習い、足音を消して彼女を追いかけた。音のない空間は日向とナルト以外の人間が存在しているのかどうかも分からなくなるような、冷たい空間だった。
「分かってるとは思うけど、騒がないでね」
感情のない声音で日向は言いきり、目の前の扉を開けた。
その先の空間は思ったよりも暗かった。
―――さぁ。蛇が出るか鬼が出るか…。
2006年2月15日
ナルトとヒナタが再会。
そうするとなんだか急に不穏に。