ヒナタが出て行った扉を見つめて火影は嘆息した。
彼女に幸せになって欲しい、と願うのは傲慢だろうか?
力を欲しい、と、暗部に入りたい、と望んだのは確かに彼女。
その結果、彼女は火影に勝るともいう力を手に入れ、暗部No.1として、黒の死神として名を馳せる。
「……あれが…ヒナタの本当の姿じゃ…」
火影は、ゆっくりと、ゆっくりと搾り出すようにして言った。
「―――のう、ナルトよ」
「………」
結界の中から姿を現した少年が、陰鬱に押し黙る。
何度…何度結界の中でウソだと叫んだだろう…。
けれども確かに彼女は彼女だった。自分の知る彼女でしかありえなかった。
「よく…考えるのじゃ…ナルト。これでもまだ主はヒナタを求めるか。それとも悪い記憶だとヒナタに対する感情ごと封じ込めるか」
出来ることなら、受け入れて欲しいが、それは簡単にいくことではないだろう。
殻のヒナタと、本当のヒナタは、180度くらいは当たり前に違うのだから。
けれども、知っていて欲しかった。
日向ヒナタの殻ではなく、日向ヒナタ自身を。
知って、それでも受け入れて欲しいと、願ってしまう。愚かな、自分。
「わかんない…てばよ…」
そんなの分からない。
あれは確かに自分の良く知る少女だ。
けれど同時に全く知らない人間だ。
理解なんて出来ない。理解するにはまだ幼い。感情も追いつかない。
「考えるのじゃ。とにかくよく考えて…答えを出したら来るが良かろう」
火影の言葉はただ重かった。
「ヒナタといる時、お主は葉月の正体を知らない」
火影はナルトに言い聞かせるように言い、呪印を組む。あまり知られた術ではないが簡単な術だ。ナルトの額に手をかざす。
ヒナタがナルトと会えば、常のナルトは感情を絶対に隠せない。
今日知ったこの真実を、ヒナタはあっさりと見抜いてしまうだろう。そうなってしまう訳には行かないのだ。
だから、ヒナタと居る時、葉月の正体はナルトの中から消える。
「ヒナタが居ない時、お前は葉月の正体を知っている」
こくり、とナルトが素直に頷いた。
未だ呆然とした風体だが、なんとかして状況を整理しようとしているのが分かる。
自分の行動によって、2人の子供がどう転ぶかは分からない。けれど、この愛し子は、受け入れるだけの力を持っているのだと…そう信じたい。
祈りにも似た火影の思い。
その、願いが適う前に、火影は………死した。
願いを、望みを、抱いたまま。