『はじまり』













 誰もが視線を合わせようとせず、誰もが誰かを気にしていた。
 ひどく居心地が悪い空間。それが、火影室を出てからずっと続いていた。任務に向かうため木の葉の門を抜ける。
 任務は抜け忍の殲滅。徹底的な忍不足によって誰を回すか火影が迷っていた任務。最悪、火津と礼花が一緒の任務になるかもしれないと言っていたあの任務だ。
 AAA任務。
 それはたしかに暗部レベルの力が必要な任務で。けれども、これだけのメンバーは必要ない。
 礼花にテマリ、そして火津。
 このメンバーは、任務をするだけなら多すぎるくらいだ。

 けれど火影はこのメンバーを選んだ。
 木の葉の守りが、火影の周囲が手薄になると知っていながら。

 いのはその異様な居心地の悪さに、不安げに眉を寄せる。
 誰もがいつもどおりの顔をしていた。いつもどおりであろうとしていた。もしも、この場に下忍や彼らと親しくないものがいたなら、この空気には気付かなかっただろう。本当に、いつもどおりを演じていたから。
 そうするしか、自分の感情を抑えるすべを知らないから。

「…あ」

 そうか、といのは唐突に気付いた。
 忍としての任務。
 忍としての人間。忍でしかない人間。忍としてしか生きていない人間。

 …そういうことなのだ。

 忍である彼らは決して自分の感情を見せようとはしない。たとえどんな状況に陥ろうとも、忍である限り、本心など見えはしない。

 ―――それが忍だから。

 充分過ぎるメンバー。
 必要以上に多いメンバー。

 火影は、この任務で彼らを和解させようとしたわけじゃない。
 この任務は、あくまでもきっかけなのだ。
 互いの諍いに、疑問に、決着をつけるという心構えを持たせる、そのきっかけ。
 火影が期待しているのは、この任務の後。忍としての仮面を脱いだ、一人一人の人間としての相対。
 
「はいはーい! ちょっといいかしらー」

 雰囲気なんて何のその。何もかもぶち壊しのその能天気な声に呆気にとられ、全員図ったかのような同じタイミングで、いのを振り向く。
 最早いのだけが完全にこの空気と無関係でいられる人間だった。

 いのはにっこりと笑って、シカマルを示す。

「私はー威志と正面から行くわー。それでーテマリさんはー火津と柯茅と後ろから回り込んで下さいー」

「いの!?」
「っっ」
「何言って!」
「ちょっっ」

 見事に重なった声を綺麗に無視して、いのはシカマルの手を引っ張る。視線という視線を無視して、にっこりといのは笑って見せた。

「各々火影様の命令を思い出すことー。それじゃ、解散ねー」

 一方的にそれだけを少女は告げて。

 ものの見事に、消えて見せた。
 勿論シカマルを連れたまま…。

「………」
「いの………」
「………」

 非常に気まずすぎる空間で、チョウジが小さく息をつく。
 いのは思いつきで行動する事も多いが、何らかのたくらみをもって動く事も多い。要するに気紛れなのだ。彼女の行動を理解する事なんて、チョウジにすら出来ないこと。
 
 なんにしろ彼女はシカマルを連れて行ってしまったのだ。
 これ以上戦力の分散は出来ない。このメンバーで行動する他ない。
 テマリも火津も、そのことに気付いているのだろう。
 視線は合わせず、抜け忍のアジトへと足を向けた。

 合図もなく、静かに、静かに、2人はその場から飛び立つ。
 2人、合わせていたかのようなタイミングの良さに、チョウジは一人取り残され、またもため息をついた。

 忍になって以来、こんなに嫌な任務は他にないだろう。

 いのが何を考えてこの組み合わせを選んだのかは知らないが、これはまたとないチャンスともいえる。
 火影とテマリの間にある何か。
 火影という忍の力。
 ……そして。





 見つけたのは、封印式だった。
 九尾という存在を赤子に封じた4代目の呪印。

 うずまきナルトに施された封印式。


 ―――それだけでは、決して起動するはずもない、封印式。








 チョウジは静かに笑い、2人の後を追ったのだった。























2008年1月7日