それ と 太陽の巫女 一つになりけり―――。
「これで、お前は日向に縛られる事はないだろう。だが、保障はない。なぜならこの術を使うのはお前が始めての存在だ」
男はそう言った。
ヒナタは呆然とそれを見る。
彼と交流はなかった。顔を合わすことすらないに等しかった。
「どう、して…?」
「………かつて、日向から逃れたいと言った男がいた。彼には日向の当主になったばかりの兄がいた。兄はそれを嫌がっていたことを彼は知っており、そして血の戒めなど知らずに兄を誘った。日向を抜けよう、と」
それは、ヒナタの知らない過去の物語。
「兄は断った。男は嘆いた。何故か?と。兄には答えることは出来なかった。弟の全ての希望を摘んでしまう真似は出来なかった。代わりに兄は、日向の呪いをたった一人にだけは打ち明けた。この血の呪いを解放できるのではないか、と信じて。そのまま時は流れ、男は死んだ。兄の身代わりになって。…兄は嘆いた。そのときようやく術は完成した。術はもう必要なかった。男は死んでしまったのだから」
淡々と積み重なる言葉に、ヒナタは瞳を閉じた。
かつていた存在を思い出して。
その存在の失われた理由を思い出して。
力が足りなかった自分。むざむざと敵の忍に捕まり、攫われかけた。
「………日向ヒアシは、ヒザシを失い、足掻く事をやめた。自由を諦めた」
「…ちち…が…」
「…………生き延びろ。足掻き続けろ。それがお前の父の望みだ」
少女は静かに頷いた。
父がどんな思いをしているかなんて知らなかった。ただ、自分を見ることのない父を恨み、それでも求め続けていた。
彼は確かに自分を見てくれていたのに。
後悔は何もならない。
だから絶対に諦めない。
足掻いて、足掻いて、足掻いて。
ここから生きて抜け出そう。
ヒナタが、火影とともに姿を消してから3夜の時が過ぎた。
静かに静かに、夜はただそこにある。
これから来る嵐を知ることもなく。
静かに静かに。
暗闇の中、何かが動いた。
全くの黒。
濡れたような鴉色。
しなやかに動く体躯は、迷いなく闇を駆け抜ける。
同時刻。
シカマルは用心深く身を起こした。
隣にいた一つの影が、それを見守る。
闇の中、全ては動きだす。
ゆっくりとゆっくりと。
ぐしゃり、と男は崩れ落ちた。
暗部の中でも上位に座す男でありながら、ただの一発で、声もなく気を失った。
結界は厳重。
けれどもそんなものは気にしない。
焦る気持ちはすでに抑えた。
抑えさせられた。
だから、自分はただ静かに結界を解けばいい。
さぁ、足掻こうじゃないか。
何処までも何処までも。
暗闇の中少女はゆったり顔を上げる。
それだけの行為がこんなにも苦痛。
ああ。
もうすぐだ。
彼が、来る…。
ずしゃ、と何かの崩れ落ちる音がして、懐かしい気配がゆっくりと、近づいてくる。
思わず身が震えた。
もうすぐ。
もうすぐ。
もうすぐ。
「炎弧―――」
―――弧耀。
もう、声は 出
な
い
―――。