それ と 人 との接触は それ の6つの時。

 同じく6つになる 人 と それ は出会った。


 人 それ に出会いて 涙 零し。

 それ 人 に出会いて 涙 零す。

 かつての それ と 人 出会いけり。


 失いし記憶 それ 戻る。

 失われし伝承 人 戻る。

 昔 太陽の一族 と 呼ばれし一族の長女。

 眠りし巫女の再来。

 人 でありて 人 でない乙女。






 少女は言った。
 ―――暗い暗い闇の中で、目隠しをされ、手足を鎖で縛られ、チャクラを封じられた少女は言った。

「私は足掻くよ」

 と。






「日向ヒナタ」

 その罪人の名前を確認するかのように、かつて少女の中忍試験を受け持った特別上忍でもある拷問・尋問部隊隊長は言った。
 その特殊な瞳は長い布で覆い隠されているにもかかわらず、ヒナタがイビキの顔に視線を真っ直ぐに投げかけた。
 長い沈黙の後に、ヒナタはぽつりと零す。

「…それは、違うよ」
「なんだと…?」
「私の名前は炎弧。弧耀がそう付けてくれたもの」

 真っ直ぐにそう言って、ふわりと微笑んだ。
 場違いなそれに、この漆黒の空間がほのかな灯りを灯したような錯覚にとらわれる。

「…だが。死んだのだろう?弧耀は」

 あまりに眩しいそれに、視線を反らして少女に尋ねた。
 残酷であるその問いに、少女はまたもや笑う。

「ええ。私が殺したの」

 優しげな、暖かな笑みを漏らしながら、そんな事を言う。

「何故」
「弧耀を人の手にかからせるくらいなら私が弧耀を殺すわ。それが弧耀の望み。弧耀が望んだから私はここに居る。弧耀のために私は生き続ける。」
「…そうか」

 そう、呟いて、自分は身を引く。
 と、同時に後ろに控えた拷問・尋問部隊の面々が前に出た。
 いつでも変わることの無い静かなイビキの表情に比べて、明らかに喜悦を滲ませた者や、何かよく分からない言葉を漏らしながら笑い出すものもいる。
 拷問・尋問部隊のメンバーには、それ、を快楽とする人種もいる上、すでに精神を侵しているものも少なくはない。

 だが、そのほうが都合がいいのだ。
 捕虜の姿に同情して油断する事もなく、手心を加えることもない。
 何処までも何処までも冷酷に、非情に捕虜を追い詰める事が出来る。

「イビキ、私は足掻くよ。右腕を落とされたのなら左手で、左手を失ったなら両足で、足が消えてしまっても、この目を失っても、私は足掻き続ける。それが、私が弧耀に教えてもらったものだもの。だから。例え命を落としても私は足掻く。足掻き続ける」
「………ああ…分かっているさ」

 追いかけてきた苦痛を堪えた澄んだ声に、イビキは誰にも聞こえないように吐き捨てた。
 これまでにどれだけの拷問や尋問を繰り返してきたか、自分でも知れない。
 けれども、知っている。

 誰かを尊び、愛し、守る瞳。
 決して折れぬ不動の心の持ち主。
 それは拷問なんてものともせず、どんな誘導尋問も、肉体的苦痛も跳ね返す。
 だが、例え意味がなかろうと、イビキの仕事はこれで…結局は従うしかないのだ。

 じゃらり…となる鎖の音を耳に残して、イビキは扉を開いた。
 一つ、二つ、三つ、と封印が解けて、暗闇の中を歩き続ける。
 最後に幻術の罠と暗号を解いて、外に出た。
 急激な光に目がくらむ。
 先程まで居た闇に比べて、あまりにそこは眩しかった。

「………」

 何を思うのか、ただそこに佇み、光に目を向けた。
 長く、長く、そこに居続けた。






「くっそ…!!」

 高ぶった感情を地にぶつけて、そのまま地に頭を擦り付ける。
 彼女は行ってしまった。
 綺麗に、綺麗に、消えてしまった。
 きっと分かっていたのだ。
 遅かれ早かれ居場所が知れてしまう事を。
 そして、それが今日だった。

 だから、彼女は…


 ―――シカマル君ありがとう。それから、ごめんね―――


「………っっ!!!!」

 土を殴りつけて、爪が手のひらに食い込むほどに強く握りこんだ。
 例え、彼女等がそれを望まなくとも―――。




 守りたかったんだ―――。






「シカ…マル…」

 誰もが彼に声を掛けれない。
 いや、それをしていい雰囲気ではない。
 何が起こっているのだろうか?

 ヒナタが生きていた。
 けれど、それはヒナタではなかった。
 自分達の知るヒナタと言う人間は居なかった。
 先程捕らえられたのは、本当に…彼女?

 分からない。
 分かる筈がない。





 分かる筈がないのだ。







「そうか…分かった」

 一つ、頷いた。
 幾つもの気配が消えて、深い深い吐息を流す。
 身体に流れる一族の血。
 残酷な血の戒め。

 知らぬ小鳥は大空を求め、墜落す。
 太陽の一族に生まれし最後の巫女。


 ………そして………その、忘れ形見―――。







 知られる事なき、太陽の巫女―――。
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