人 でありて 人 でない太陽の一族。

 人 と それ を繋ぐ 白き瞳 の巫女。

 最後の巫女 それ を守りて命を落とす。

 されど巫女の子。

 真実最後の巫女となりて それ よみがえらす。

 蘇りし それ は 巫女 を守る。


 巫女 すなわち 日向の姫。

 それ すなわち 九尾の狐。



 それ すなわち 神 。





 木の葉の里と外との境界で、シカマルはまんじりともせずにナルトを待っていた。
 結界に包まれた空間。
 結界の周囲には幾重にも幻術が重ねられており、迷い込むものなどいないようになっている。

 夜の帳はまだ落ちたまま。
 シカマルは苛々しながら爪を噛んだ。
 隣に居たアスマが、落ち着けというように視線を送ってくる。
 この緊張下に置かれても、アスマも、目の前に立つ紅もカカシも汗一つかいていなかった。
 こなした任務の数。時を重ねてきた時間。下忍と上忍の実力の差。
 全てが天と地ほどの差があった。
 冷静に視線を周囲に配っている3人を見習い、呼吸を落ち着ける。

 時間に余裕はある…。
 計画に狂いもない…。
 だから、絶対に大丈夫なはずだ。
 そして、音もなくそれはやってきた。

「ナルト!!!!」

 全く唐突に、視線の先に現れた姿に、シカマルは思わずといった風に歓声を上げた。
 無事に決まっている、とは思っていても、やはりそれを目で見るのと想像するのとでは全く違う。

「…シカマル、お前は見ないほうがいい」

 呻くようにアスマが言って、は?とシカマルがアスマを見上げた時には既に彼はいない。
 先程まで目の前にいたはずのカカシと紅も同様。
 ナルトを囲むようにして、カカシ、アスマ、紅が立っていた。

「ヒナタ…」
「ひどいな…」
「ああ…」

 ぎり、と奥歯を噛んで、不条理な怒りが湧き起こるのを堪える。
 彼らは、目を逸らしたくなるような壮絶な少女の姿から、目を逸らそうとはしなかった。

 それは、この計画に関わった時にした覚悟。
 どれだけの闇が付き纏おうと、自分たちはそこから目を逸らさない。
 木の葉の闇を、真実をこの目で見極め、判断する。
 それは、シカマルも同様。

 だけど。それでも。

「―――っっ!!!!ヒナ…た…?」

 上忍たちの間を押しのけるようにして、ナルトの前に立ったシカマルは、声を失った。

『お帰りなさい』

 そう、微笑んだ少女はもうどこにもいない。
 目を逸らしてしまいたくなる。

 歪に歪んだ指の形に。
 削ぎ落とされた肉の跡に。
 ざんばらになった傷ついた髪に。

「…あ…ぁ……っぁ…っ!!」

 がくがくと震えながら、シカマルは己の身体を両腕で抱え込む。
 それでも、ヒナタから視線を逸らさない。
 絶対に。意地のように。

「………」

 無言で、アスマはシカマルの頭に手を置いた。
 大の大人でも瞳を閉じて、見ることを拒みたくなるような光景に、シカマルはそれをしなかった。

「私程度の力じゃなんの意味もないわね…」
「ナルト、木の葉を抜けて、火の国を出るより先に綱手様を探すんだ」
「………」

 ナルトはただ頷く。
 かつて大蛇丸や自来也と並んで三忍と呼ばれた伝説の忍。
 医療忍者として最高の腕を持つ忍だ。

「…うまくやれよ」

 …もう一度ナルトは頷いて、彼らの横を通り過ぎる。
 そのまま行くかと思われたところ、シカマルの隣で、ぴたりを足を止めた。

「…シカマル、カカシ、アスマ、紅………ありがとう」

 4人が、はっとして振り返った時には、既にその姿はなく。
 僅かに舞う風だけが、彼らを見ていた。






 目覚めたナルトに、何も聞かずに協力してくれた人間たち。

 シカマル
 カカシ
 アスマ
 紅
 サスケ
 サクラ
 シノ
 キバ
 いの
 チョウジ

 あの個性豊かな子供たちが、彼らなりに必死に手伝って、ナルトとヒナタが里を抜ける準備が出来た。
 シカマルが作戦を立て、アスマと司令部として働いて、下忍たちはナルトとヒナタの行方不明の噂を強化して、ことさらに騒ぎ立て、シノは蟲を使ってカカシとともに拷問場所を割り出す。
 その場の結界をキバは嗅ぎわけ、その種類と量を上忍に伝える。
 上忍は拷問部の方に任務が行くように仕向け、警備を薄くした。

 そして、今日。
 いかなる狂いがおきようと縦横に動くために、作戦を立てた本人と上忍が里と外の境界に待機していた。
 ナルトとヒナタの形をした、精巧な人形とともに。
 この人形が、焼け炭と化して、僅かな遺品で九尾の狐と日向の姫と分かるように死体となる。

 死体を捜す愚者はいないから。
 力不足の下忍たちは家の中。

 彼らが動いては上忍たちも動きにくく、他の忍に察知される可能性は高くなる。
 その、言外に足手まといだと含ませた作戦だが、誰一人文句は言わなかった。
 もう彼らは知っていた。自分たちは力の足りないただの子供でしかないのだと。


「ありがとう」


 小さく呟いて、ナルトは走る。
 さぁ、里の外はすぐそこにある。

 抜け出そう。
 この檻の中から。

 抜け出そう。
 この籠の中から。



 金色の髪が闇夜に舞った。
 自由を手に入れた2人は、今はどうしているのか、誰も知るものはいない。












「そうして太陽の巫女と狐の神様は自由を手に入れました…とね」

「どこ行ったのー?」
「姫様生きてる?」
「あー…。もう10年以上昔の事だから真実は分からないけど…きっと生きている」
「本当!?」
「絶対生きてるよ!」
「生きて一緒にいるんだ!」

 キラキラと瞳を輝かす子供たちに、吟遊詩人は笑って、そうだね、と頷いた。

「今日はこれでおしまい。また明日な」
「明日は6代目火影様の話がいい!」
「最年少の風影様の話も聞きたい!」
「伝説の三忍の話も!」
「分かった分かった。全部聞かせてやるから今日は帰りな」
「絶対ね!約束」
「約束!約束!」
「はいはい。約束な」

 バイバイ、と手を振りながら子供たちは去っていく。
 それを見守って、青年は首をこきこきと鳴らした。

「…ったく。めんどくせー」

 苦笑しながら呟いて、青年は楽器をおろした。

「お疲れ様です」
「元気な子たちですね」

 共にいたカップルが穏やかに笑いかける。
 そういえばまだ居たんだったな、と青年は思って、営業用の笑みを浮かべた。

「今日は店じまい。また聞きに来てくださると嬉しいです」

 多少大げさに礼をして、青年は簡単に荷物を纏めて持ち上げる。
 そのまますぐに立ち去ると思っていたら、彼らのそこから動かず、青年は眉を顰めた。

「あの…?」

「「―――ありがとう」」

 黒い髪が、金色の髪と共にふわりと舞った。
 色素のない瞳が一つ。蒼い瞳が三つ。
 ほんの一瞬だけ、青年の知る者の面差しをそこに写し、黒髪のカップルの姿は消えうせた。

「う…そ…だろう……?」

 呆然と、青年は呟いた。
 涙が急に溢れて、力なく笑った。

「はっ……ははは…ははははは!」

 風が気ままに吹き踊り、雲は緩やかに流れていた。
 とても自由に。
 2006年1月14日
 遅くなりました&長くなりました。
 …最後のカップルはあの人らで、吟遊詩人の青年はそんなことが最も似合わなそうなあの人。
 瞳のことですが、ちょっと意味分からないぞという方に隠して解説↓
 ナルトの眼球をヒナタに移植しました。カカシ外伝のオビトの目状態です。
 ナルトは片目失う覚悟でしたが、九尾…神の再生能力はナルトの予想を上回り、じわりと再生しました。
 ちなみに移植をしたのは綱手。

 ってことです。

 憧れて止まないお姉様(?)、雪花さんに捧げます。
 妄想を掻き立てる素敵なキリリクありがとうございましたv
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